L'art de croire             竹下節子ブログ

ニースのテロ 補足

先日の記事の追記の部分に書いた勇敢な人々の話、倒された自転車の人のインタビューのほかにようやく本命のスクーターに乗っていた人のインタビューがTVや雑誌で出はじめた。

花火には遅れたけれど海岸に出ようと妻と息子2人とやってきて、トラックのテロに遭遇し、まず息子2人を置いて妻と共にスクーターで追いかけ、次に何とか阻止しようと妻を降ろし、トラックにつかまって開いていた窓からテロリストを何度も殴った。
テロリストは銃を向けてきたし発砲もされたが、殺されてもいいという覚悟で殴り続けた。

この人(空港勤務の普通の人)の直接阻止のためにテロリストが暴走を続けられなかったのは確実だ。

すごいと思うが、恐ろしいのは警官がやってきてテロリストと銃弾戦になって撃ち殺したことだ。よく怪我をしなかったなということだ。そればかりか、トラックにはりついていた彼がテロリストの仲間かどうか分からない状況だったので、この人はあっという間に乱暴に警官に拘束されて引きずられていった。

もちろん後ですぐに事情が分かったのだろうけれど、あのシーンで、警官によって間違って撃ち殺されていたり、怪我をさせられていたりしたらどうなっただろう。

まあアメリカと違ってフランスの警官は発砲するハードルが高いので(それが批判の的になることあるわけだが)よかったけれど。

この人は自分は「英雄ではない」と答えていたけれど、最初の記事で書いたように、このひとのようにトラックに張り付くことには成功しなかったけれど、多くの人が何とかしようと反応した。

こういうテロで不特定多数の人が居合わせる場合、パニックに陥って逃げ惑うのは当たり前だとしても、必ず一定数の人が、脊髄反射的に「敵」に立ち向かう。保身などは考えない。

こういう身を挺して外敵に立ち向かうというリアクションは、英雄的と称えられるのはいいことだけれど、そういう評価の期待とは別に、「英雄的」でなく、「人間的」だと私は思う。

そして残念だけれど、その同じ「人間的なリアクション」が、さまざまなシーンで、洗脳されたり環境や出会いが悪かったりなどの運命のいたずらで、また、テロリストを突き動かすこともあるのだ。

そうやって「殉死」したテロリストは、仲間内ではやはり「英雄」、「殉教者」と称えられるわけだ。

私は、スクーターの「英雄」行為を相対化しようとしているわけではない。

このような「人間的なリアクション」のポジティヴなものが、長い目でみて「ネガティヴ」なものよりも多かったからこそ、私たちの「文明」は滅びずに続いている。

私はその恩恵を受けている。

「悪の権化」のテロリスト

VS

「正義」の英雄

という単純な二元論におさめずに、私たちの人間性の本質を考察したいと思うだけだ。

ハンナ・アーレントがホロコーストにおける「悪の陳腐さ」を語ったように、「善」もまた陳腐であり得る。

「英雄」をちゃんと称えないと次に英雄的行為で悪に立ち向かってくれる人のモティヴェーションが低くなる、などという心配はない。そういうリアクションをする人は、今回のスクーターの人が言うように、使命感に駆られて、などという暇もなく、ただ、行動してくれたのだ。

そういう人たちのおかげで、全体として私たちはサヴァイヴァルしてきた。

問題は、そのような「英雄」のレトリックでテロ行為を煽るようなグループの存在である。

それがISであれ、1995年のオーム真理教であれ、そのような「悪」(人が安全に生きる権利を脅かす)に向かわせるレトリックを支えているものにも「英雄」という概念が取り込まれている。(衆生の魂を救うというバージョンであるとしても、大きな使命を遂行すると言う意味で)

加害者と被害者、英雄と悪魔のようなレッテルではなく人間性の深いところまで降りていって、問題の本質を考えないと、いつまでもいつまでも、新しい悪魔、新しい英雄、新しい加害者、新しい被害者が出てくるだろう。

(これは多分、ひとりひとりの問題だと思う。個人的にはテストステロン弱者の私は悪にも善にも突出しないでぼーっとひっそりと他者の悪意を避けつつ善意の恩恵を受けているタイプ。脊髄反射的には大したことはできず、じっくり考えて、「弱者の側に立つ」という原則に殉じなくっちゃなあ、とようやく言い聞かせるタイプです。)
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by mariastella | 2016-07-22 18:34 | フランス
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