L'art de croire             竹下節子ブログ

ドーピングが「悪い」わけ

リオのオリンピックに関して、ロシア選手団の到着が報じられ、国ぐるみのドーピング問題についてあれこれ議論が続く。

ロシアへの牽制というか制裁というのは今の国際政治や経済の問題と切り離せない様々な思惑があるのは当然だろう。でも表向きにはすべて、ドーピングはオリンピックの精神に反する、とかスポーツの精神に反する、という分かりやすい「悪」として語られる。

けれども、ツール・ド・フランスや自動車レースのように、機械や制御システムの性能をどんどんよくしていくことは当然だと思われる。

競泳ですら、ある種の水着だと水抵抗が極端に減って好記録が出るのが問題になったことがある。

陸上競技のスパイクだのスポーツの道具に関してどんどんテクノロジーが進化するのも分かる。

マッサージの技術やクリオテラピーのような方法で筋肉の疲れを取り去るとか、薬物、化学物質の投与なしでもいろいろな方法が研究され、実施され、メンタルケアにも専門家が動員される。

その様子を見ていると、より高く、より速く、などというスポーツにかける夢を追うために、ヒトがヒトたるゆえんである「道具作り」などに精出すのは当然なような気がする。

どこまで人は速く走ったり泳いだりできるのか、の限界を追う壮大な実験のようなものだ。

スポーツへの情熱の中に「限界を超える」というものがあるのは当然だ。
無責任な観客としてはそれがどこまで行くのか見てみたい。

だから、ドーピングが「悪」であるのは、必ずしも「スポーツの精神に反している」からではなく、

むしろ、「基本的人権の侵害」であるという一点でいいのではないだろうか。

機械や部品にはいくらテクノロジーを駆使しても構わないけれど、生身の若いアスリートの生理を変性させるような化学物質などを与えてはならない。

一瞬の栄光のために若くて健康な人間をアディクションに陥らせたり、長く健康に生きるチャンスを減らしたりしてはてはならない。

ましてや「国の栄光」のために自然に健康に生きる権利を犠牲にしてはならない。

「ドーピングなし」ですら、多くの一流アスリートが無理をして故障したり再起不能になったり、わずか20代や30代で引退し体がボロボロになるケースは少なくない。
その種目に有利な特定の体形や特定の筋肉強化が追及される。

彼らの受けるマッサージなどのケアも、そのスポーツに特化したものなので、長い目で見るとバランスが崩れて不自然になる。

それでも「後遺症」に悩むアスリートの証言はたまにしか耳にしない。士気がそがれるような情報は隠ぺいされるからだろう。

もちろん、あるスポーツについての天性の才能がある人がその分野で花開けるのはいいけれど、今のスポーツ=メディア=経済=政治が切り離せないような「国際舞台」で活躍するためには、「素のまま」でトップ・アスリートになることはまず不可能だろう。

大きなロジックに取り込まれてしまう。

「消費されてしまう」と言ってもいい。

そんなアスリートが輝かしい勝利をおさめて家族総出の祝福を受ける様子などを眺めるのは嬉しい。

でも私のような人間は、正直言って、もし自分の夫や子供がそういう世界で活躍する(あり得ないことだけれど)としたら、まるでカルト宗教に奪われるような絶望感に苛まれると思う。

自分も入信していっしょに盛り上がってしまえ、と思えるだろうか。

ましてそこにドーピングの影が見えたなら、私にとっては「人権侵犯」であって、「オリンピックの精神に反する」なんて綺麗ごととは遠くかけはなれた別の世界である。
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by mariastella | 2016-07-26 16:12 | 雑感
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