L'art de croire             竹下節子ブログ

フランスの教会テロの続き 福音ってなあに? 「いかる前にいのる」

まず、昨夜7/26の夜のニュースをテレビで見た後に書いたものを。

テロリストの2人組は、ニースの犯人と違ってここ数年の典型的なフランス生まれテロリストだったようだ。

身元が発表された一人は19歳で地元(人口3万弱の町)のモスクで過激思想に染まり、シリアでISに合流しようと出発してトルコで追い返され、スイス経由でパリに送られ、短期間の拘留を経て電子足環をつけて釈放され親元で暮らしていた。土日以外の午前中は外出可能で、火曜の9h30からの教会ミサに9h43に行くことができたわけだ。

平日のミサだから、3人のシスターと2名(?)くらいの信徒とジャック・アメル司祭の6人だけだったそうで、司祭は専属ではなく臨時しかし定期的に来る人だった。

86歳の司祭というと、なんだか古き良き時代の保守的な人だと思ってしまうかもしれないけれど、それは一昔前のこと。今80代後半の司祭は、30代の活きのいい時に第二ヴァティカン公会議の風に吹かれて、異宗教間対話などを何十年も続けてきた進歩派が少なくなく、アメル司祭も、イスラム教徒の交流グループの中で長年働いてきた。

教会から抜け出したシスター・ダニエル(他のシスターは入院中)がインタビューに答えていたが、司祭は祭壇から降ろされて前に跪かされて、二人のテロリストが壇上でアラブ語で話したり、キリスト教徒は殲滅、などと言ったりしていたそうだ。シスターは自分も殺されると覚悟した。彼女の肩を抱き頬にキスするムスリムの女性の姿が印象的だった。

2015年の春にパリ近郊の教会がテロの標的になっていたのを事前に検挙して以来、教会周囲のパトロールが日常的にされるようになったけれど、フランスの45000の聖堂のうち、セキュリティ・システムができたのは1227だけだそうで、観光客も来ないような小さな教会は問題外だろう。(それでも、セキュリティをこれ以上強化して教会を閉鎖的な場所にするつもりはない、と言うのは立派だ。オランド大統領もこれ以上人権や自由を制限するような処置をとるつもりはないと言っている。なおフランスのすべてのシナゴーグ300、モスク2000は警備されている。)

と、ここまで書いて、続きも書くつもりだったけれど、今朝のラジオでいろいろな人の意見を聞いていて、実はなんだか希望にあふれてきた。

普通なら、あい続く様々な形のテロ、絶望と恐怖が沈潜してもいいし、カトリック教会でミサ中の司祭が残酷に殺されたということで、「神も仏もあるものか」、「ほーら、宗教戦争」、「教会は神の家、守られているはずじゃないの ?」etcの気分があっても不思議じゃない。

実際ニースのテロで元気を得ていたサルコジなどは新たな燃料を与えられたように舞い上がり、極右とともに、「シリアに行こうとして戻った奴は裏切り者、非国民だから全員収監」、という具合に意気軒高だ。

そしてイスラエルのセキュリティシステムがいかに徹底しているかを称揚。

でも、これらに対して、すごく本質的でポジティヴな議論が今回初めて耳に届いてきた。

カトリックの人が、「あまりのショックで怒りの形で反応することさえできず、祈るしかなかった」と言っていたが、そのおかげなのか、フランスの全宗教の代表者も今回初めて本質的なことを言い出した。

宗教一般を揶揄していたカリカチュア雑誌へのテロや、ユダヤ人へのテロや、劇場やカフェや花火大会の無差別テロでは、皆が一般論に終始していたものが、「フランス最大の宗教であるカトリックの教会でミサ司式中の司祭が殺された」、というショックが、いい種となって、希望をもたらしている。

しかも、こういうとき、その昔やはり不当に残酷に殺されたイエス・キリストの残した「神よ、彼らをおゆるし下さい。彼らは自分のしていることが分かっていないのです」という感じのメッセージがはっきりしているのが怒りや憎悪の抑止力になる。

長い時間をかけて書かれてきたムハンマドによるコーランの言葉に比べて、イエス・キリストの言葉というのは基本的に福音宣教をした2年くらいのものなので、分かりやすい。

で、啓蒙思想や革命思想や無神論の潮流もしっかり泳いできたフランスだけれど、カトリック教会でアメル神父が殺されたことで、新自由主義やナショナリズムに圧倒されて眠っていたキリスト教由来DNAのいいところがようやく目を覚ました。
これは、カトリック教会の言葉だけでなく、フランスの文化と伝統を共有するすべての人のことだ。

これを見たらアメル神父は喜ぶかもしれない。

「…の死を無駄にしないように」という決意とかではなく、ある種の死によってだけ生まれるものがある。

では、教会テロの翌日、私の心を明るくしてくれたいろいろな言説についてはこの後の記事で書くので楽しみに。
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by mariastella | 2016-07-27 17:43 | フランス
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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