L'art de croire             竹下節子ブログ

教会テロが一つのチャンスだと思えてきたわけ その3

これはその2の続きです。

昨年から何度も、テロにみまわれているフランスだけれど、その「不運」な感じの中に、幸運だったなあと思うこともある。それは、警察を統括する内務大臣がベルナール・カズヌーヴだったことだ。

この職には大統領になる前のニコラ・サルコジが就いていたことがあって、その時に強面で、郊外のゲットーを一掃するだとか、「容赦しない」という姿勢でインパクトを与え、

「おお、こういう時代にはこういう実行力があって信念のある政治家が国を守ってくれるかも」

と思った人が多かったらしく、大統領になった。

なってからも鼻息荒くタカ派を貫いた。

で、今のテロの時代にもしサルコジがいたら大変なことになっていたと思う。

アメリカの「愛国法」みたいなのが発令されていたかもしれないし、憲法改正も非常事態中の対策もすごいものになっていたかもしれない。

で、カズヌーヴ。

この人は見た目はどちらかと言えば冴えない。

自分で「田舎の公証人」の外見だと言っているし、

「自分とサルコジの唯一の共通点は背の低いこと、彼とは目と目を合わせて対決することができる」

という趣旨のジョークを言ったこともある。
サルコジよりは1,5センチ高くてシークレットシューズなしで167cmだとも。
サルコジはそれでも筋肉を鍛えているイメージ演出をしているけれど、カズヌーヴは色白で、アウトドア派にすら見えない。

53歳の弁護士で2014年4月以来内務大臣の職にあり、オランド大統領もずんぐりむっくりしているが、2015年1月のテロ以来メディアへの露出が半端ではないので、警察を統括する内務大臣としていっそう貧弱に見える。

サルコジのように声を荒げることもない。

でも、誠実で落ち着いた態度のせいでどちらかと言えば好感を持たれていた。

去年はおとなしくしていたサルコジは、来年の大統領選での再選を視野に入れて、ニース以来、攻撃に転じた。

水を得た魚のように、政府は生ぬるい、セキュリティ怠慢、司法も無責任、自分ならシリア帰りの過激思想の持ち主は全員収監で外に出さない、などと叫んでいる。
ニースの警備についてカズヌーヴが嘘をついたと訴えたニースの市警察官も出てきた。

で、カズヌーヴさん。

教会テロの翌日だったかラジオでインタビューされて丁寧に解説していたのだが、それを聞いていて、この人が内務大臣でよかったなあ、と心から思えたのだ。

まず、サルコジとは対極にある「しゃべり方」の上品さ。

とにかくフランス語がきれいだ。

詩の朗読でもしてほしいくらい。

「田舎の公証人」というより「お公家さん」のイメージ。

で、とてもソフトなのに筋金入りの社会主義者。

どんなにサルコジに煽られようとも、

「法治国家」を守るという名目で法治国家をやめるわけにはいかない

何があってもフランスを「警察国家」にはしない。


と明言。

ばりばりの「政教分離主義者」であるが、カトリックのポントワーズ(パリに近い北部)司教であるスタニスラス・ラランヌとの交友は知られている。
「法治国家」や「政教分離」や「人権」のルーツを今のフランス・カトリックと共有しているようだ。

ラランヌ司教は、今回のテロについて、

Il n’y a pas de miséricorde sans justice.
(正義なしのいつくしみはない。)

とコメントしていた。

この二人のコンビが、何か希望を抱かせてくれる。

フランスでテロが続く時期が、ソフトだが信念に満ちたこの二人のコメントが多くの人の耳に届く時期と重なったのは、「不幸中の幸い」を超えた、「天の配剤」? いや、この困難な世の中で、人が共生に向けて成熟することを助けてくれるチャンスのような気がするのだ。

(こんなことを言いたくないが、参院選や都知事選にまつわる日本のメディアの報道を見ていると、希望とか成熟とかチャンスとかいう言葉はとても浮かんでこない・・・)
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by mariastella | 2016-07-29 00:58 | フランス
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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