L'art de croire             竹下節子ブログ

教会テロが一つのチャンスだと思えてきたわけ その4

これはその3の続きです。

今回の教会テロに関するコメントで、今まで聞かれなかった新しい言葉が、フランスのイスラム連合関係者からはじめて発せられて驚いた。

今までは、ISによるテロがある度に、

「イスラムは平和の宗教です」

というコメントが表看板だった。

「テロリストは真のイスラム教徒ではない。」

「イスラムの教えに反している。」

「イスラム過激派テロリストとムスリム一般を混同するな。」

「最大の被害者は私たち。」(偏見と差別を助長されて)

なども。

お気の毒にとは思うし、しかしその同情心が、「寛容」だの「信教の自由」という言葉に飾られて一部のイスラム原理主義モスクを「野放し」にする現実があった。

一方で、非常事態宣言以来、「不信心者を抹殺しろ」というような説教がなされている10のモスクが閉鎖されたが、まだ80ばかりのモスクでは「共和国主義」と両立しない宗教法による政治介入、人権無視、女性差別などの言説があるという。
フランス革命後のコンコルダのように、共和国主義と合致してフランス語で説教できるフランス人のイマムだけを認めるシステムにすべきではないか、という意見も保守派からは出ている。

今回の教会テロのテロリストの一人は地元のモスクに通っていたわけではなく、今や「憎悪のフローの媒体」ともなっているSNSを通して洗脳されたわけで、モスクのイマムに洗脳されたわけではない。

フランスのカトリックが、何世紀もの確執の末、共和国主義と合致しているように、「フランスのイスラム」のほとんども、共和国主義を優先する穏健派である。

だから彼らには、テロリストは大迷惑であり、理解できない、イスラムではない、と必死に忌避したくなる理由は分かる。

それが、これだけ重なると、彼らの方から、

「イスラムが平和の宗教であることは確かだけれど、それでも、テロリストたちがこのようにイスラムの神の名を騙って非道な行為に走るということは、我々も、平和の宗教だと言っているだけでは済まされない。イスラムの中の何がどのように捻じ曲げられているのかについて、神学的、哲学的に考察、分析して、テロリストの人質になっている神を解放しなくてはならない」

と言い始めた。

この言葉に希望を感じる。

また、これまでISのテロリズムとイスラムが無関係だという証拠に、「中東で最も多くテロの犠牲になっているのがムスリム」だと数を並べ立てていたのが、それもももう意味がない、という人がいる。
共和国の危機には、自分たちの権利(道で祈るなど)を自主的に制限してでも対話を勧めて共通の対策をするのが必要だ、として、「真実は互いに矛盾しあうことはない」というアヴェロエスの言葉を引く。

le Monde にイスラム学者で政治学者のAbderrahin HAFIDIがムスリムに向けて訴えた言葉だ。
このル・モンドの記事のはじめの方はここで読めます。私はペーパーで全部読みましたが、訳す暇はありません)

フランスのカトリックは今回殺害されたアメル神父もそうだが、長い間イスラムとの対話、共存、共生のために地道な努力を重ねてきた。その土台がある。その「仲間」をテロリストに殺されたという意味では、今度こそ、フランスのムスリムも被害の「当事者」なのだ。

早い話、なんだかんだ言っても、2015年1月のシャルリー・エブドやユダヤ食品店襲撃の時には、その後の派手な「共和国デモ行進」にムスリムの姿は少なかった。
カトリックはさすがに連帯したけれど、そもそもシャルリー・エブドが宗教全般を揶揄するカリカチュア紙だから、「宗教」関係者から寄せられる同情の中には複雑なものもあったかもしれない。
ユダヤ人の犠牲には同情してもマイノリティだし、パレスティナの状況のこともあり、これも微妙な摩擦や偽善があった。

今回は、教会テロの舞台になった小さな町が、モスクと教会が長い間いろいろな共同プロジェクトを通して住民の交流を図っていた町だった。
シスターたちも愛されていた。
教区主任司祭がコンゴ人であることも「共生」のシンボルだろう。

全住民が本気で神父の死を悼んだ。

フランスのムスリム連合は、金曜の礼拝日にアメル神父を追悼し、次の日曜には近くの教会に出かけて追悼ミサに参加するようにと信者に呼びかけている。

「共に生きる」ことは、死を「共に悼む」ことができるということだ。

テロがここまでいろいろなヴァリエーションで繰り返されてきたことによる新たな問題意識の芽生えと、それが表明されることの意義は大きく深いと思わざるを得ない。

これを契機にテロリストの狙う「宗教戦争」どころかほんとうの隣人愛について考えることができるのでは、と希望の光が射してくる。

(むしろ微妙なのは、左翼無神論のイデオロギーにとらわれている人たちで、シャルリー・エブドの襲撃の後で「私はシャルリー」だと嬉々として言っていた人も「私はカトリック」などとは絶対に言えない伝統がある。
でも、「宗教の戦争」でなく「宗教同士の連帯」が強くなれば、安易な「私は何々」というスローガンよりももっと有効な戦いが、宗教の名を騙ったテロに対してできると期待しよう。)
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by mariastella | 2016-07-30 00:17 | 宗教
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