L'art de croire             竹下節子ブログ

リオ五輪の柔道とダヴィッド・ドゥィエ

前にサッカーのユーロ杯のことをいろいろ書いたので、リオ五輪のことも少し書いてみようと思い立つ。
 
柔道のことだ。

フランスの100キロ超級の柔道チャンピオンであるテディ・リネールが無敗記録を延ばしながら五輪2度目の金メダルを獲得した翌朝、同じ階級の五輪でやはり2冠のダヴィッド・ドゥイエがラジオでインタビューを受けているのを聞いて、文化の違いをいろいろ感じた。

オリンピックの柔道の重量級(というか昔は無差別級 ?)と言えば、私は東京五輪の決勝でオランダのヘーシンクが日本選手を破ったショックを体験した世代だ。

このおかげで自由同は国際スポーツとして定着したという説もある。

フランスに住むようになって、オリンピック観戦ではフランスもひいきチームになった。
フランスではやけに柔道が人気で、強いことにも驚いた。

公立の柔道教室もたくさんあって裾野が広い。道具もほとんどいらないからあらゆる階層の子供がやってくる。

オリンピックの柔道で日本選手とフランス選手が決勝を争うことも少なくないけれど、そういう時は、やはり「お家芸」というのが刷り込まれているので日本選手を応援する。

だから、アトランタ五輪でダヴィド・ドゥイエが重量級を制した後のシドニーで、日本の篠原選手に勝ってフランスで英雄視されたことや、その後で誤審が認められたけれどメダルはそのままという話などは微妙に不愉快だった。

今回の優勝者のリネールも、ロンドン五輪では決勝が日本人とではなく二度目のリオでは日本人と対戦ということで、なんだかドゥィエのケースを思い出した。

しかしリネールは確かに圧倒的に強い。
宇宙人とか言われている。

で、まあ順調に勝ったわけだけれど、それについてドゥイエが解説していて、その明晰さに驚いた。

ドゥィエはリネールが肉体的に恵まれていてテクニックもスピードもあることに加えて、戦略的に非常に知的であることを指摘したのだが、その論の展開には説得力があった。

ドゥィエは議員になったりスポーツ相になったりと、彼の知名度や国民的人気を利用しようという政党に取り込まれているだけの人かとなんとなく思っていたけれど、頭がよく、それを言語化できる。

考えてみると、対戦相手と実際にやり取りするタイプのスポーツというのは、単に練習して自分の記録を高めるとか力をつけるだけでなんとかなるスポーツではない。

一流である相手と戦って、臨機応変に戦術を変える必要がある。

しかも、今の柔道は、一本をとれば終りだけれど、そうでなければ制限時間を意識して、攻防をどう配分して優勢を維持するかを考えなくてはいけない。相撲とはちがう。

私のあまりにもかけ離れた経験に引きつけて考えても、例えば楽器をたった一人で練習している時はただただ難所を繰り返してミスを減らすことに集中しても、アンサンブルで弾く時は仲間の調子やアクシデントにもそなえなくてはいけないし、聴衆がいる時は聴衆の雰囲気にも合わせていっしょに何かを作っていくという工夫も入り、クリエーションがどんどん複雑になるのと似ている。

「自分との闘い」に近いスポーツではどんなに努力しても、「努力の方向」というのは大体決まってくる。
だからこそ端的に筋力アップするためにドーピングする人も出てくる。

けれども直接の対戦相手がいるタイプのスポーツではドーピングはあまり意味がない。
自転車競技とか水泳とかトラック競技とか、重量上げなどとは根本的に違う。

もちろんどんなスポーツでもいろいろな戦略やメンタルは大事だろうけれど、ドゥィエの話を聞いていると柔道には独特の知性が必要な気がしてくる。

でも日本人を見ていると、文化的に、言語的にも、「大きく強い者は多くを語らず」という感じがある。
朴訥なお相撲さんのイメージというか。優れた知性の持ち主でもそれを言語化して感心されることはめったにない。
「結果を見てください」というのが高潔な姿という伝統を感じさせる。

サッカーの時と同じで、オリンピックも、選手のパフォーマンスだの勝敗をめぐる言説を観察し、その変遷を見ていると興味深い。

ここ何回かのオリンピックは、ウェブ上で日本とフランスの両方のリアクションを同時に知ることができるからなおさらだ。

スポーツ観戦好きだった母のことを思い出す。

2020年が東京で、2024年がパリの五輪になれば、国民性の比較はますますおもしろくなるだろう。
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by mariastella | 2016-08-14 00:12 | 雑感
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