L'art de croire             竹下節子ブログ

ブルキニの話

数日前、澤藤統一朗さんのブログにブルキニ(イスラム女性用のブルカ風水着)をめぐってのフランスのいざこざについての記事があった。

このテーマはあまりにも複合的なのでスルーしようと思ったのだけれどひとことだけ書いておく。

今回の海岸でのブルキニ禁止条例については、ブルキニを着て浜辺にいる女性の服を脱がそうとするような倒錯的なシーンもあって確かに問題外だった。

私も澤藤さんのように、この条例を無効とした国務院の決定はさすがフランスだと思った。

ムスリムを規制する条例が出るたびに反応するカトリックも、「私は来週、修道会のシスターである妹を浜辺に誘うつもりだが、ヴェールをつけたシスターの服装で座っていても尋問されるのかと心配だ」と揶揄している人がいた。

浜辺に座っていても、泳ぐわけではなく着衣の人などいくらでもいる。
まあフランスのリゾートでは少ないだろうけれど、日焼けしたくなくてできるだけ肌を覆って日陰に座っている年配のご婦人など十分いるわけで、そんな人に、肌を隠すのが悪いなどというのはまったくの倒錯だ。

問題は、女性が、男性の作った条例や法によって服装を規制されることのほうで、イスラムをあげつらうなら、シャーリア法では、厳密に言えばブルキニどころか、そもそも男性(父、兄弟、夫を除く)のいる浜辺に女性が行くことが禁じられている。
肌は覆っているが体の線を出しているブルキニを着てリゾート地の海岸に行くなどとんでもないことだ。

フランスの場合は、露出の多い水着で泳ぐことを共同体から禁止されてこれまでプールや海に行けなかった女性たちがブルキニができたおかげで海に行くことができた、むしろ「女性解放」の第一歩だなどと言われているのでことがややこしい。

そうやって海に来たムスリムの女性に、公共の秩序に反するから他の女性のように肌を露出しろなどというのはまったくグロテスクなのだが、問題はそこではない。

問題は、ブルキニをはじめとするシャリーア法にかなった女性の服が新しいマーケットを形成していることのほうだ。

たとえば、シャリーア法を適用しているサウジアラビアでは、イスラムスカーフで髪をおおったりアバヤで体をおおったりするのは初潮を迎えた後の女性ということになっている。そして閉経した女性はヴェールをとってもいいともある。

もともと髪を隠していないで町に出ると「売春婦とまちがわれる」ことを避けるためにヴェールの着用が推奨されたといういわれとも合致している。修道女のヴェールも「イエスと結婚している」女性であって、他の男とは結婚しないというしるしだった。普通の既婚女性もヴェールをかぶっていた。

それがいつのまにか、フランスにおけるムスリムの共同体の一部では、イスラムスカーフをつけてない女性はみだら、不品行、男を誘っている、のようなハラスメントの対象になってきた。

宗教と関係なくても、女性が痴漢にあったりセクハラされたりした時に、挑発的な服装をしていたからだ、そんなところに夜一人でいるのが悪い、などといわれるのと同じ構造だ。

で、ブルキニだが、これはこういう問題を利用したビジネスの話なのだ。

なんと今では2,3歳の幼児用の、かわいい色とりどりの頭巾と服の一体型で全身を覆うタイプのイスラム服さえインターネットで売られている。

需要のある所に商品が開発される。

フランスのオートクチュールもイスラム女性向けモデルを打ち出したことで物議をかもした。

ブルキニは宗教ではなくビジネスなのだ。

素敵なデザインだから、堂々と来ているのよ、どこが悪いの? 的になってくる。
2歳の女の子のアバヤやブルカも「かわいい」から着せてるのよ、となってくる。

市場論理に目をくらまされて私たちはいつの間にかいろんなことで変な方向に行って、なかなかそれに気がつかない。

それに気づかせてくれただけでもブルキニ騒ぎは有用だったとも言える。

市場経済の戦略にとって、ムスリム女性向けの水着というのはまさに「ブルーオーシャン」(競争相手のいないマーケット)であった。

「売春婦でないのなら男を誘惑するような服を着てはいけない」などという根強いドレス・コードを、長年かけて苦労して、やっと打ち破ってきた女性たちが好きなかっこうをしている浜辺に、それが進出してきたのだ。

ブルキニの問題はイスラムの問題ではなく、政教分離の問題でもなく、フェミニズムの問題である。
[PR]
by mariastella | 2016-09-01 06:29 | フェミニズム
<< 改宗と宣教の違い? komonoの話 >>



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
以前の記事
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
カテゴリ
検索
タグ
最新の記事
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧