L'art de croire             竹下節子ブログ

テロリストの名前と顔

ここのところMJシリーズを書いていたら、他のいろいろなことの覚書が溜まってしまったので、これ以上溜まらないように少し書いておく。

いろいろあるのだけれど、特に今朝のラジオで聞いた「テロリストの名前と顔」の話が印象に残った。
先日のアメリカのテロのテロリストが逮捕されたニュースで、負傷したテロリストの顔と名前が何度も繰り返してテレビで流れた。指名手配用のいろいろな写真も。

そういうことを受けての話だ。

日本ではどうかわからないけれど、アメリカもフランスもここ一年ほどでテロが相次いでいるから、その度にテロリストの名前と顔が繰り返し繰り返し報道される。

それを受けて、そのようにテロリストに名と顔を与えるのは「非人間的なテロという行為」をしたという意味では非人間的であるテロリストを「人間的に表現することになる」からよくないのだという意見がある。

その理由は、ひとつが、名前と顔がセットになった「人間」として特定して喧伝することで、それが人々の記憶に残り、テロリスト側からすると「英雄」「殉教者」となるので、彼らの目的が果たされたことになるという。「知名度」が勲章となって、次の候補者を鼓舞するリスクもある。

もう一つは、テロの被害者にとって二次被害になるからだという。
「テロにやられた」というだけなら「災害」のような受け止め方も可能になるし、「罪を憎んで人を憎まず」のような立場に立つことも可能だけれど、テロリストを人間化してしまうと、「敵」に対する憎悪や恐怖が生れる、というのだ。

なるほど。

ではそうしないためにはどうすればいいのか。

この反対のことをしているのが、サルコジである。
彼は、テロリストは人間ではない、野蛮人であると言う(野蛮人のフランス語Barbareには「人」という言葉が入っていない。しかも外から侵入してくる異教徒という含意もある)。

だから、犯人に名と顔を与えて住まいや生い立ちなどを報道して「人間化」するのではなく、野蛮人1とか野蛮人2 とか呼べばいいという考え方だ。ナチスの収容所みたいだ。

で、ラジオでは、そのどちらにもしないために、

テロリストには、「名は報道せず、顔だけ報道しろ」というユニークな提案がなされていた。

「名を与えることで」文字通り「有名人」化させないてはいけない。

また名を与えることで「個別化」すると、「あいつは自分と違う」と人々は「悪人認定」して、その反動で「あいつとは別の名を持つ自分は正しい」側に入って自己正当化しまう。

でも、どこの誰かわからない「顔」だけ見ると、よく似た人はどこにでもいるものだし、服装や髪形や写真写りによっては同じ人でも別人のように見えることなど誰でも知っているから、テロリストはテレビを見ているこちら側の誰であってもおかしくない、と思える。
誰でも他人を攻撃する「加害者」になり得るのだ、被害者も加害者も人間なのだ、という視点が生れ、そこから「悪を殲滅」というのではない新たな対応が生れる。

これは思考実験みたいな話だけれど、フランスに住んでいるとすごく大切な話だと思った。

テロがある度に、心のどこかで、顔よりも名前を知りたいという気持ちが起こる。

そしてそれが「アラブ系の名前」であると、なんだかわからないけれど、「ああ、やっぱりイスラム過激派ね」と納得してしまう自分がいるのだ。
「顔」だけなら、毎日すれちがう人と変わらない。ケバブのサンドイッチを売ってくれるおじさんや、朝市でローストチキンを売ってくれる親子とも変わらない。ということは、彼らと共生している私自身とも変わらないのだ。

これは、日本なら、悪質な犯罪の容疑者が逮捕された時に、「顔」は「普通のアジア人」でどこにでもありそうでも、報道された名前が日本人の名前でないとか、帰化した人だとか聞くと「やっぱり悪は『外』にある」と納得だか安心だか分からない思考停止に落ちることがあるのかもしれない。

これを語ったのはRaphaël Enthovenで、彼の話にはいつも教えられる。

ジャン=リュック・マリオンの弟子でもあった哲学者だが、BHLの娘と結婚歴があったり、サルコジ現夫人のカルラ・ブルーニと父の後でカップルになったり、私生活は私の想像を絶するのだけれど、それは、また、別の話だ。
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by mariastella | 2016-09-21 18:54 | 雑感
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