これは前の
「イズー君はハンス少年か」の続きです。
猫って学習能力が高い。
でもその学習能力というのは、刷り込まれたものを忠実に守るというタイプのものではない。
以前、一定の手順をふめば餌をもらえるように学習させた動物に、そのそばに何の障害もなく餌を置いた実験で、猿や犬は機械的に、相変わらず前に教えられた手順をふむけれど、猫はためらいなく近い方の餌に直行するという結果を見たことがある。
猫は不要な儀式を華麗にスルーする。
前に、洗面台の蛇口からちょろちょろ出る水を、その周りをせっせと掻いてから直接口で受けて飲むイズ―くんを見て、オランダの堤防決壊を救ったハンス少年にたとえたが、最近シナリオが変わった。
水がちょろちょろしか出ていないのに、口から洩れて流れる分量の方がどうも多い気がする。
これでは資源の無駄遣いで、エコロジー的公正に反するなあ、と思ったので、ちょろちょろ水を私が鹿威しの竹みたいに手のひらで受けてやることにしてみた。
するとイズ―くんは、なんのためらいもなく私の手のひらからちゅくちゅくと水を飲み始めた。
この方が効率はいい。
それをたった一度経験しただけで、次からは、ちょろちょろ水を流すと、もう堤防掻き掻きの儀式はなくなって私の方を見てひと声
「ほら、手」
と催促するようになった。
ものすごくクリアなメッセージだったので思わずまた手のひらを鹿おどしのように構える私。
イズーはゆっくりと飲み始める。
長い。
流水が直接当たり続ける私の手はだんだんと冷たくなる。
これって私がハンス君になってるんじゃない?
もうそれからは、私が洗面台を使っていなくても、イズ―くんは喉が渇けば、さっと洗面台に上って定位置についてから私を見て
「ハンス、出番」
とひと声かけるだけになった。
その度にPCをスリープにして立ち上がる私。(スリープにしておかないとスピノザ君がキイボードの上に座り込むリスクがあるからね)
で、慎重に水のちょろちょろ加減を調整して手に水をためるハンス君。
好きなだけ飲んだら「ご苦労様」も言わずに去るイズー。
かわいい。