ファティマから戻って
ポルトガルから戻ってきた。
スペイン語は大学でも習ったことがあるからわりと分かるのでポルトガル語も何とかなると思って準備していかなかったら、分からない言葉がたくさんあった。 スペイン語のバイリンガルの生徒と話したら、やはりポルトガル語は分からないと言われた。 そうなると、中南米でも、ブラジルと他のスペイン語圏の国ではコミュニケーションが結構大変なのかもしれない。 いくつかのホテル(四つ星)のバスルームに全部、内側からかける鍵がなかった。他の公共機関のトイレでも鍵がないのが一ヶ所あって不思議だった。 テラスで食べることが多いからかもしれないが、ナイフとフォークとナプキンをまとめて紙袋に入れてテーブルに置くレストランが多いのもはじめて見た。 ホテル内ではさすがにそうではなかったが。フランスならテラスで食べてもこういう置き方はしない。 カトリック的には、イタリアの影響の方がスペインの影響よりも大きそうだ。 ファティマもヴァティカンとの特権的なつながりを自覚している感じだし。 ファティマのオーガナイズを見ていると、ついルルドと比べて、ルルドってやっぱりすごいなあ、と思っていたら、なかよしになった地元の女性(フランス語ができた)から、ファティマはいつも黒字でルルドに寄付をしているのだと言われた。 フランスは、革命に政教分離に無神論があって教会離れしているけれど、ポルトガル人はファティマに来て献金する、子孫のない人はみな財産をファティマに寄付するのでファティマはお金に困っていないそうだ。 なるほど、1917年のご出現が認定されるまでは、みなスペインのサンチアゴ・デ・コンポステラに行ったり、ピレネーを超えてルルドに行ったり、さらにアルプスまで超えてイタリア詣でをしていたものが、ついにファティマが「国民的聖地」になったという感じなのかもしれない。 外国からの巡礼グループももちろんいて、ご出現の聖堂でのロザリオは、ポルトガル語、英語、フランス語、そして韓国語で唱えられていた。スペイン人はわざわざ西の端に来ないのかもしれない。歴史的なライバル関係も複雑なのだろう。 聖堂の周りを膝で歩く人たちももちろんいた。膝あてみたいなのをつけている人もいれば、わざわざズボンをたくし上げてむき出しの膝と脛で進む若い女性のグループもいた。 ポルトガルでは子供たちの初聖体には伝統的に五色のロザリオをプレゼントするのだそうだ。 五色はオリンピックと同じ五大陸で、最初から世界中の人のために祈る習慣を与えるためだという。 最初に自分のことや自分の国に視野を限ると大人になってもなかなか世界に目を向けられないから、と。 なるほど、ヨーロッパの西の端から外に出て新世界を「発見」した人たちの自負かもしれない。 日本の天正遣欧少年使節が最初にヨーロッパについたのもリスボンだ。 美術館で南蛮屏風などを見た。「Namban」とあちこちに書いてある。「蛮」って言われているのを知っているのかなあ。ここでは「ナンバン=日本」みたいな雰囲気だ。それを説明したビデオに出てくるポルトガル人が、みな南蛮屏風に描かれているとおりにとんがり鼻でシラノ・ド・ベルジュラックみたいなのはご愛敬だ。 なかよしになった同じ歳の女性は、自分はファティマに住んでいるけれど、ポルトガル中から、いや世界中から多くの人が一生懸命お金を貯めてここまで一生一回の巡礼にやってくる、それを毎日見ていると自分の信仰のちっぽけさを痛感する、と何度も言った。実感がこもっていた。 ルルドでも地元の人と話したけれど、みなもっとさばさばしていて、せいぜい巡礼の人の役に立ててうれしい、と言うだけで、シーズンオフには皆スキーに出かけるという感じだった。 1917年、ファティマにはいったい何が起こったのだろう。 お告げを聞いた一人は21世紀まで生きていたし、いっしょに「太陽のダンス」や「花びらの雨」を目撃した人が何しろ五万人もいたのだから、彼らが全財産をファティマに寄付することを始めたのかもしれないし、その話を聞き伝える次の世代はまだたくさんいるだろうから、これからもまだファティマの「現役感」は続くのかもしれない。 しかしその異様なパワースポットの雰囲気は私には感じられなかった。 ルルドは、山、丘、川、洞窟、病院、泉(ファティマにも泉はあるし容器に入ったものが売られてもいる)、圧倒的な病者の数と奇跡の期待の濃密さが混然一体になって別世界ができている。 でも、ファティマでは「ポルトガルの聖地」に寄らせていただきました、という感じがする。 ここは「当事者」が祈るよりも他者のために祈る場所なんだなあという感じもする。 来年が100周年、すっかり準備が整った感じだ。10月の大祭にも巡礼者がいっぱいになるのだろう。 「聖母ご出現」によって生まれた聖地、でもファティマの「秘密」は世界中で噂され、ヨハネ=パウロ二世の命も救われた。彼が列聖されたことでなおさらファティマの輝きは増している。 これらすべてがどう関係しているのかわからない。歴史的出来事の距離感と同時代性の生々しさとが微妙な感じで共存していて、残るのは「自分の信仰のちっぽけさ」の自覚だけなのかもしれない。
by mariastella
| 2016-10-03 02:06
| 宗教
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