L'art de croire             竹下節子ブログ

フッガーライの話

16世紀のドイツで銀行家のヤコブ・フッガーが始めた社会福祉住宅は、今も健在だ。

ドイツ南部バイエルン地方の第三の都市アウスブルグ(人口29万人)の中心部に1万5千平米に1516年に建てられたフッガーライ(フッガーの場所)だ。二階建てで隣り合わせの長屋式小住宅が並び、142戸の住居に150人が住んでいる。入居条件も昔からのものだ。1521年に創立者が作った規約は変わっていない。

貧しいこと。

アウスブルクの市民であること。

カトリックであること。

毎日「主の祈り」と「アヴェ・マリア」と「信徒信条」を、フッガーと他の寄進者のために唱えること。

庭の手入れや夜の見回りを手伝えることも望ましい。

最も必要なのは忍耐で、四年前から住む68歳のモニカ・シーバーという女性は七年待ってほとんどあきらめかけていたと語る。

規約だけでなく、家賃も変わっていない。
1521年に1ライン・フロリンであった家賃は、2016年の時点で年間0,88ユーロ、つまり年間100円くらいというわけで、ほぼ無償ということだ。

各戸は寝室とリビングからなる60平米で近代的に補修されている。

イロナ・バルベールは一年前に入居したが、すでにインテリアもすべて整えられていた。アメリカで15年過ごし、2度の離婚を経て今は天涯孤独、わずかな年金しかないが、フッガーライで本当の尊厳を取り戻したという。「もう動きたくないわ、ここで幸せです。きれいだし、静かだし安全だから」

フッガー財団の広報によれば、「尊厳」は大切なポイントで、創立者は「物乞い」は嫌ったという。
つまり「自助努力しても貧しい」人のための施設なのだが、候補者選別の優先基準は「より困っている人」なのだから、柔軟だ。

柔軟と言えば、毎日の祈りの義務も別に監視されるわけでもチェックされるわけでもない。

でも各部屋にかけられたデューラーによるヤコブ・フッガーの肖像画を見ながら、「サインしたんだから祈ってますよ」とモニカは言う。(続く)
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by mariastella | 2016-10-22 11:04 | 雑感
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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