L'art de croire             竹下節子ブログ

『奇蹟がくれた数式』マシュー・ブラウン

帰りの機内で見たイギリス映画。

これも『ターザン』と同じで、帝国主義的、白人優位主義に少し気分が悪くなった。

インドの独学の天才数学者が、いわゆる「免状」を持たないゆえに、エスタブリッシュメントに受け入れられない。

数学の天才という普遍的説得力があるのに、植民地、人種差別、学術システム外差別という壁が厚い。

デーヴ・パテールというおなじみの俳優が1887-1920に生きたラマヌジャンという実在の数学者を演じる。
第一次大戦のトラウマが大きな時代背景となっている。

女神ナマギリからインスピレーションを受ける、神から与えられたものでない真実など意味があるのか、というスタンスの彼と、無神論者で非戦論者で孤独な独身者というハーディ教授の友情物語だが、文化背景のあまりの違いで意思疎通がうまくいかない。

ハーディはケンブリッジの教授で尊敬される成功者だけれどコミュニケーションがうまく取れない。
それでもリトルウッド(トビー・ジョーンズ)という最高の同僚に救われている。このキャラクターがユニークですばらしい。
実際は、ハーディはラマヌジャンより10歳しか年長ではない。リトルウッドは年齢不詳に見えるがハーディより2 歳若い。

この映画を可能にしたのは、プリンストン大学のインド系数学教授が共同制作者になったからで、映画の中でも、インド人の留学生がラマルジャンと交流する。

イギリスは女王をリスペクトしてクリケットをやる国からの移民は差別せずに多様社会を成功させているから移民に人気があると言われているが、基本が共同体の棲み分け社会であって、アングロサクソンのエリートの中に同化されるためのハードルはとても高い。
第一次大戦のころのラマヌジャンが兵士から暴行を受けるシーンなどはリアルで見ているのもつらい。
食糧難の時の菜食主義者の不自由さも切実だ。

研究から祈りや食事に至るまでを枠づける宗教の中で生きる男と、社会規範と良心の自由の間で自己を律するカントみたいな孤独な男の交流。
二人が真に友人ではなかったということが分かる「告白」が、ラマルジャンに「妻がいる」ことだというもので、その衝撃の大きさそのものが今の時代の私たちには驚きだ。

原題は『無限を知っていた男』で、数式の美しさと、エレガンス、無限への感性と超越神や聖なるものへの感性、けれどもそれを「証明」することの願望や必要性、信じるということはどういうことなのか、神を信じるのか、神を信じている人間を信じるのか、などのさまざまな問いを喚起する深遠なものだ。

けれどもその数学的な部分の感動は、その片鱗も暗示してくれないので、抽象的なままに終わってしまうのが残念だ。
私の高校時代『大学への数学』という雑誌に「エレガントな回答を求む」というコーナー(今検索したら「数学セミナー」という雑誌だというから私の記憶違いかもしれない)があって、毎回いろいろ考えたことがある。
エレガントなひらめきというのを目の前にして感嘆させてくれたのは、一年先輩の友人だった。
彼の受験時が東大の受験中止の年に当たり、京大へ進学してそのまま兄弟の数学教授になった人だ。

正しいものも美しくなくては意味がない、という感じはその時に実感した。

この映画ではそういうカタルシス(映画では無理だろうし、映画を見る人の能力では無理なのだろう)がないのが欠落感として残る。

美しい妻やインドに一人取り残されたくない母の思惑などもサイド・ストーリーになっているけれど、携帯電話やインターネットのある時代だったらいったいどういう展開になっていただろうな、などと思う。
若い頃に携帯やメールがあったら人生が変わっていたろうというシーンが私自身にもいくつかあったことを思い出す。
21世紀におけるインド人科学者や技術者のグローバルな活躍を考えるにつけても感慨深い。
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by mariastella | 2016-11-13 01:50 | 映画
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