来週末が投票日となるフランスの共和党予備選に立候補している7人のうち1人にジャン=フレデリック・ポワソンという人がいる。
知名度も低く、世論調査では下位だが
この人の公式のプレゼンテーションが興味深い。
姓のポワソンというのは「魚」という意味だ。
だからポワソンのところに魚のアイコンをあしらっている。
でもこのマークはキリスト教のシンボルでもある。
ギリシャ語の魚「イクチュス」は、イエス・キリスト、神の子、救い主ΙΗΣΟΥΣ ΧΡΙΣΤΟΣ ΘΕΟΥ ΥΙΟΣ ΣΩΤΗΡという五つの単語の頭文字をつないだもので、初期キリスト教徒が迫害された時代にキリスト教徒同士のが確認しあう暗号の役目も果たした。
受難の十字架と同様のシンボルだが、魚が海という生命の発祥地に生きることからキリストの神秘そのものも表すとアウグスティヌスが書いている。
ポワソン候補は、このシンボルマークを縦にしているのでポワソンのPの形と似ていなくもないし魚の形で名前を表しているので、一見、なかなかしゃれたロゴに見える。
でもこのポワソン候補はキリスト教政治団体に所属していて、カトリックであり、フランスのようなカトリック文化圏の国においてはこのマークがサブリミナル効果でキリスト教を喚起するのは計算済みだろう。
我らの信ずるところを表に出そう、というのがスローガンだ。
ただし実態は、環境規制に反対する新自由主義者で、蝶々や草よりも親子が大切なのだから環境省は家庭省に従属すべきだなどと言っている。
カトリック陣営からはもちろん異議も出ている。
環境保全を訴える教皇回勅にあるように、環境も人間も神の被造物であり、環境を守ることこそ、すべての命、子供たちの未来にとっても重要であるからだ。
フランスではさすがに、ポワソンのような主張は、環境保全に対するトランプのような主張(アメリカ経済を牽制する中国の陰謀だ)のようには受けない。
COP 21のパリ条約の主導と「成功」は、昨年11月の多発テロの後でのフランスではポジティヴな要因だという合意が形成されているからだ。
でも、例えばサルコジが予備選に勝利したら、ポワソンに取り入って、カトリック保守派の票を固めようとするに違いない。この人が予備選に立候補できたということ自体が、必要な推薦数を確保したということだから十分に力になる。
トランプはアメリカの「中絶禁止」陣営にもすり寄っている。
政教分離共和国主義が徹底しているフランスでは、さすがに今はそこまではいかない。
「中絶の禁止」と「中絶の合法化」とは決してシンメトリーな対立ではない。
「中絶の禁止」とは、中絶する女性や関係者を裁くこと、罰することだが、
「中絶の合法化」とは、中絶を強要するものではもなく、中絶しない人を罰するものでもない。
選択の自由を保障するものだ。
本当の意味での「自由の行使」とは、いつも霊的なものとつながる。
中絶そのものに反対か賛成かという対立とは違うのだ。
「中絶禁止」はキリスト教のブルキニ問題だという人がいた。
女性を性的な側面にモノ化して何かを力で強要するからだ。
「トランプ・ショック」の後でフランス共和党予備選(木曜日に最終公開討論)があるおかげで、いろいろなことが見えてくる。