L'art de croire             竹下節子ブログ

 アルベルト・セラ『ルイ14世の死 La Mort de Louis XIV』

イオネスコに『Le Roi se meurt』(王が死ぬ)という戯曲がある。死を受け入れない王の周りで舞台の小道具や装置が少しずつはぎとられる。

この映画『ルイ14世の死』は、1715年、太陽王ルイ14世が寝たきりで過ごす最後の3週間。
なにもはぎとられない。はぎとられるのは生命だけ。

薄暗がり。
鳥の声、虫の声、羽音、時計の音。
ひそひそ話。
孤独。

足の切断をためらう医師たち。すでに完全な体ではなくなっている。
イギリス人にしか抽出できないというエッセンスを入れたあやしい薬を売り込む男。
豪華な部屋と黄昏の暗さ。まるでレンブラントの絵の世界。
特に解剖のシーンは。



入れ歯を飲み込んだ大理石のライオンのような顔
の周りを大振りの鬘が覆う。

容態が変わるたびに医者たちが議論する。

嚥下できない。
話せない。
ミサ。
告解。
終油の秘跡。

宗教は役に立っているのか?
ナントからかけつける枢機卿。
王がMonseigneur と呼んでいる。
それは司教の呼び方で枢機卿は votre Éminence ではないのかなあ。

監督はカタルーニャのアルベルト・セラ。スペイン・バロックの色も濃い。
撮影はポルトガルだったらしい。

こんな映画、だれが観るのか。

ルイ14世とその時代のファン。
ダンサーでバロック・ギタリストでダンス・アカデミーやヴェルサイユ文化を作ってくれた人への敬意。

ヌーヴェル・ヴァーグへのノスタルジー。
ジャン・コクトーとフランソワ・トリュフォーに見出された少年ジャン=ピエール・レオ-がヌーヴェル・ヴァーグのシンボルのような映画人生を生き、72歳になって、75歳のルイ14世を演じているからだ。

すごい迫力だ。

権力者の死、に興味がある人には必見かもしれない。

ナポレオンの死を思う。
生前退位できずに苦しみながら死んだヨハネ=パウロ二世。
生前譲位できない日本の昭和天皇の死。
パブリックの死。
逆説的にすごく孤独だ。

半熟卵を口にしたりビスケットをかじったりするたびに宮廷の人が拍手する。
目を開けると大仰に歓声を上げる。
見世物のようでもある。緩慢な公開処刑。完全に死ぬまで退位はできない。
職務、機能、権能を担ったまま死ななければならない。

こういうのを見ていると、権威も権力も宮殿もいらないから、清潔で近代的で、鬘と宮廷服をつけていない医師に看取られて安らかに死にたい、と実感する。

今の時代に生きていてよかった、とも思うけれども、中東の野戦病院で血を流して死んでいく子供たちを思い浮かべると、やはり、問題は死に方でなくて、どう生きるかなのだ、と分かる。
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by mariastella | 2016-11-25 00:23 | 映画
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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