L'art de croire             竹下節子ブログ

フィヨン、シャルリー・エブド、カトリック

フランソワ・フィヨンが共和党の予備選で大勝したら、今週の『シャルリー・エブド』は、フィヨンを揶揄する傑作なカリカチュアが表紙で、中味も、例のフィヨンとカトリックを結びつける短絡な記事が満載だった。

カトリックがこんなに攻撃されるなんて、なんだか19世紀末か20世紀初めですか、と言いたくなるくらいアナクロな感じがする。
でも私の直接知らなかった反教権主義イデオロギー自体のカリカチュアを見ているようで興味深くもある。

ちょうどフランス司教会議が、政治の理念についての声明を出したし、議長のマルセイユ大司教が、中絶を考え直させるサイトの禁止法案に異議を唱える手紙を大統領に出したものが公開され、翌日のラジオで広報担当の司教がそれを解説するというタイミングでもあった。
11/30にはリヨンのバルバラン大司教が司教区の議員ら260人を連れてのローマ巡礼の3日目に教皇の話を聞いている。
教皇は言わずと知れた格差社会の底辺にいる人の味方で、難民の味方でもあり、その話は極右はもちろん共和党の主流とはかけ離れている。

私が感慨深く思うのは、フランスのインテリ左翼の系譜の人たちがいまだに、というか最近あらたに、カトリックというと、偽善者、小児性愛者、終わったコンテンツ、のように唱え続けることだ。
そして、それが、ヨーロッパの他の国、特に、旧共産圏の国々とはまったくずれているということだ。

東ドイツ出身のメルケル首相のいるドイツも含めて、多くの国では、無神論的物質主義は、政治警察、迫害、強制収容所などを思い出させる。
ロシアでは、ミハイル・カリーニンの時代、1930年に「神なき5年」プロジェクトによって教会は壊されイコンは焼かれ、聖職者や修道者が虐殺された。
アルバニアでもキリスト教だろうとイスラム教だろうと、宗教を信じているという人はすべて殺されたり強制労働に送られたりした。

東ドイツでは、プロテスタント教会は独裁からの避難所として機能し、1989年にベルリンの壁崩壊に至るデモの組織にはライプツィヒやドレスデンの牧師たちが大きな役割を担った。

これらの国々の人たちは、国家による20世紀の殺人が、神の名よりも、科学の名や無神論の名でより多く犯されてきたことをまだ覚えている。

一方、メルケル首相のドイツキリスト教民主同盟や、キリスト教社会同盟など、主要政党に「キリスト教」の名が冠されるなんて、フランスでは考えられない。

アメリカと宗教の関係も根が深いけれど、フランスの反教権主義の根も深い。

そういえば2002年のマリー・ド・ラ・パッションというフランスの修道女の列福式にフィヨンが参加してヨハネ=パウロ二世に謁見しているけれど、フランス革命で殺され殉教したサロモン・ル・クレールが10/16に列聖された時は、フランス革命を加害者にする儀式には出られないとして、カズヌーヴ内務相(宗教も担当)が欠席した。

それにもちろん、フランスではイスラム過激派はもちろん、普通に敬虔なイスラム教徒をどう扱っていいか分からない、彼らだけを差別していると取られると困るから宗教全部を規制しようという動きもある。

『シャルリー・エブド』など、イスラム教への揶揄より何倍もひどいというより下品な表現をカトリックに向けているのは有名で、フィヨンにもそのネタが応用されたわけだ。

フィヨンがカトリックのボーイスカウトに属していたこと、息子たちもそれに続いていることまで、まるでベネディクト16世がヒトラーユーゲントに組み込まれていたのと同じように書き立てているメディアもある。

なんだかいろいろなトラウマをまだ消化も昇華もさせないで抱えているような複雑なものが底に流れている。
オーストリアの状況もそうだし、イタリアの国民投票もリスクが大きく、ヨーロッパは一体どうなるのだろう。
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by mariastella | 2016-12-03 08:15 | フランス
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