L'art de croire             竹下節子ブログ

マーティン・スコセッシの『沈黙』 をめぐって(その1)

マーティン・スコセッシの映画『沈黙』が日本で公開されはじめたようだ。

フランスでの公開は2月8日だ。知人が出演していることもあって楽しみ。
見てからまた感想を書くつもりだ。

日本の小説が原作で、アメリカの超大物監督による映画というのは多分めったにないだろうから一つの「事件」でもある。

でも、それに合わせて日本の「カトリック」関係者があらためてカトリックの立場から遠藤周作の原作やら評価やらについていろいろ語り始めたので「へえ、そうなんだ」と思った。

キリスト教の神でなくても、地震、津波、障碍者無差別殺人、テロなどのニュースが続く昨今、「神も仏もあるものか」、という悲痛な思いを抱く人たちは多いから、17世紀に拷問された切支丹たちや宣教師たちが「なぜ神に助けてもらえなかったんだ」、と思う人がいても不思議ではない。

その「迫害」の中で、最後まで信念を捨てずに「殉教」してめでたく神の国に行った(かもしれない)立派な人と、
一時の苦しみに耐えられずに棄教して罪悪感に打ちひしがれる人、
の二極化があるように思えることも不思議ではない。

日本のカトリック界では2月に戦国時代の殉教者と認められたキリシタン大名高山右近の列福式があるのでますます「信念を曲げずに大義のために死を受け入れた」人というのは盛り上がる。

もともと日本には「判官びいき」というか、栄光の時もあったのに悲惨な死を迎えた人に思い入れをする伝統もある。
実際、引き立てられていく切支丹たちの姿を「立派だ」と敬意の念を示した役人もいるという。

そういうベースでは、『沈黙』の宣教師は、他の切支丹(転んだ人も含んで)が苦しむのを見てあえて踏み絵を踏んで助かったのだから、日本的なヒーローにはなりにくい。

それを遠藤周作が宣教師が聞いたキリストの声によって正当化したのだから、微妙だ。

まあ、それによって、「踏むがいい」と言ったキリストこそ、日本的心性から見ても「真の自己犠牲のヒーロー」だと納得してもらえるようにできているとしたら、遠藤は立派なカトリック作家だ。

でも、

キリスト教は弱さを煽ったわけではない、とか、

正義や真理の理想を宣言して生命を投げ出した人こそ「神の子」である、とかいう人がいる。

棄教した信者や宣教師の弱さに注目して批判しているわけだ。

キリストなら自分自身が踏まれることを選んだろう、という遠藤の視点はスルーされている。

まあ、鞭うたれて十字架に釘付けにされてという屈辱的で悲惨な「受難」を受け入れたキリストだから、何が描かれていようと「踏み絵を踏む」程度のことで「正義や真理」をうんぬんするとは思えない、と遠藤が考えるのは、別に、日本的な甘えのキリスト教などと批判されるほどのことではないと思うけれど。

命をかけるほどの「正義」だの「真理」だのなんて、異教徒でなくとも、普通の人間の理解を到底超えているだろうし。

それだけではない。後世の歴史によって実は「誤り」だった、と裁かれた「正義」や「真理」や「絶対」などたくさんある。
その「誤り」を守るために人を殺したり、「誤り」に殉じて自分の命を差し出したりした人たちも当然たくさんいるわけだ。

国の大義や、神や主君への忠誠のために、あるいは保身のために、戦場に出向いて人を殺したり殺されたりした人のすべてが、「殉教者」や「英霊」とリスペクトしてもらえるわけではない。
拷問したり虐殺したりする側だって、ただの保身故だったかもしれないし、イデオロギーにとらわれると、人は人間性を失って自分も敵も「モノ化」してしまう。

(続く)
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by mariastella | 2017-01-23 01:04 | 宗教
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