L'art de croire             竹下節子ブログ

アサド大統領の不思議

先日、シリア大統領のバッシャール・アル=アサドについてのドキュメンタリー番組をTVで観た。

私はこのアサド大統領というほど、「自由世界」からの罵倒の言葉とその外見が違う人はいないなあ、といつも不思議に思っていた。

彼が眼科医で、ロンドン大学に留学している時に、兄の死で故国に呼び返されたという過去や、ロンドン生まれのキャリア・ウーマン(銀行の投資部門で働いていた)の美しく聡明そうな奥さんがいることは知っていたので、こんな女性に愛されているのだから悪い男ではないのでは? とも思っていたくらいだ。

迷彩服の兵士たちの間を回るときも真っ白なワイシャツに黒ズボンだったり、モスクで床で礼拝する時もスーツにネクタイ姿だ。

イラクのサダム・フセインだとか、リビアのカダフィだとか、チュニジアのベン=アリだとか、エジプトのムバラクは、いかにも「独裁者」っぽい強面の外見だが、アサドは、内向的で穏やかで、という評判が不思議ではないほど、背は高いが華奢な印象がある。顔もよくみると、かわいいかも。父親のハーフェズの画像検索をすると、独裁者だった父親もすらりと上品な感じだ。

見た目だけなら、どうみてもアサドは理性的な穏健派で、こぶしを振り回す独裁者タイプのトランプとは大違いだ。

そしてアサドは伝統的な「西洋エリートタイプ」の外見をよく心得ていて、それをフルに使っている。

シラク大統領は、フランスにとっての保護国同然のレバノンへの脅威を軽減するために何度もアサドに会っていた。
アサドが大統領に就任する前からだ。

バシャールは自分にとって息子のようなものだ、などと公言していたのだ。

それからいろいろあった。

アサドが、一度は父の時代からの政権の腐敗を一掃しようという改革の気配を見せたにかかわらず、結局父から譲り受けた絶対権力を決して手放さない、そのためには、一般人を含む弾圧(化学兵器も含む)も辞さない、という強硬策に出たのも事実だ。
中東が石油資源を含んで地政学的に複雑なところで、米露欧トルコ、イラン、サウジ、そして数々の軍産複合体の利害と思惑がこの国の「内戦」をこじらせた。

それでも、おなじみの「正義の味方」「国際社会」が干渉して、アサドを放逐してシリアを「民主化」するという方向は動かせないと思われた。

そこに現れた「僥倖」が、誰の目にも分かりやすい「極悪」であるにISだ。

そのうちにフランスについても書くつもりだが、ISの登場によって「救われた」勢力はたくさんある。

ともかく、ISも、最初は「国際社会」から祝福されたシリアの「反アサド軍」も、だんだんと、欧米の目から見ると、「イスラム過激派」に集約されはじめた。

アサドが内戦後初めて国を出た先はプーチンのロシアだ。
ロシアはアサド(とシリア内の自国の軍事基地)を助ける。

そこでまた、イスラムスカーフもかぶらないヨーロッパ人っぽい妻を連れて、スーツとネクタイのアサドが国際メディアに登場。

欧米のジャーナリストも積極的に招いて、インタビューを受け、イメージ戦略を繰り広げ始めた。
ISに破壊されたキリスト教会でキリスト教徒にも寄り添う。

1/26には、英外相のボリス・ジョンソンが、イギリスはアサドの退陣は求めずロシアと協力すると言った。

誰でも、ISの野蛮さやテロを見ると、「アサドの方がまし」だということに異論はない。

ISは、SNSによって、中東の若者やヨーロッパに住む若者を洗脳して、無差別テロを決行させる。

少なくともアサドなら、、シリア政府軍が国境を越えてヨーロッパを攻撃してくることはあり得ない。

けれども、国境を越えてヨーロッパになだれ込んだのは何百万人という「難民」だった。
中東の内戦だと思っていたものが、国境を超えたのだ。

大量の難民の流入という現実は、人権やヒューマニズムを掲げるヨーロッパの「文明国」にとって、ミサイル弾によるよりもずっと、ずっと深いところを狙い撃ちされるものになった。
欧米軍の空爆は、ヨーロッパ人の良心に向かってうち放たれる「大量の難民」というミサイルに対する迎撃ミサイルみたいなものかもしれない。
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by mariastella | 2017-01-29 00:16 | 雑感
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