L'art de croire             竹下節子ブログ

フランスとイスラム  その7

これは前の記事の続きです。

フランス国内のムスリムを「ISのテロのせいで混同される加害者意識の罪悪感」から「イスラモフォビーの差別の被害者」感情でまとめあげようというCCIFの戦略についてのジル・ケペルの説明は納得がいく。

では、少なからぬメディアや、左派の知識人、社会学者らがそもそもCCIFに呼応するのはどうしてだろう。

実際、フランスのメディアにおいては、何十人という犠牲者を出したニースのテロと、たった一人のムスリム女性が市の条例の行き過ぎた執行によってニースで不当な扱いを受けたという事件とをほぼ同じ情報量で扱った。

これはCCIFのプロパガンダだけでは説明できない。

それには二つの理由がある。

まずCCIFがメディアの扱いにすばらしく長けているという事実だ。

もう一つは、イデオロギーとしてのCCIFの後ろには、イスラモ・ゴーシスト(親イスラム左派)というアクティヴな活動が連携している事実である。

若い世代のムスリムが活発な政治的発言をするようになった(その代表がボンディ・ブログ出身のメディ・メクラットで、彼はイスラモフォビーを告発するメディアの寵児となった。その彼の本性については以前の記事で書いた)。

フランスの左派知識人が彼らを応援し、持ち上げた。

社会学者のエマニュエル・トッドやメディアパールのジャーナリストのプレネルなどだ。

フランスのイスラモフォビーは、1905年の政教分離法におけるカトリックとの関係を引き合いに出して強調された。

いわく、政教分離があっても政府はカトリック司祭がスータン(黒い司祭服)を着て歩くことを禁止したわけではなかった、などだ。

フランスの政教分離とカトリックの関係は、イスラムとの関係とは歴史的にも政治的にもまったく異なっていて同列に語れないことは自明なのだが、なぜ、イスラモ・ゴーシストが「不当に差別されているムスリムの擁護」を新しいイデオロギーにしたのだろうか。

政治学者のジル・ケペルは、過去に同じ「トロツキスト」であり、同年代のエドウィ・プレネルの「イスラモ・ゴーシスム」をこう説明する。

フランスに68年五月革命の嵐が吹き荒れた時、サルトルなど左派哲学者らとともに、多くの若者が共産主義シンパとなり、文化大革命の毛沢東を支持するマオイスト、ソ連内のトロツキー主義を支持するトロツキストを自称した。

「極左」は人類の輝かしい未来に向かうメシア的な存在としてプロレタリアを理想化した。労働運動内部での多くの矛盾には気づかないままだった。 

そのうち、冷戦は終わり、彼らの理想化していた「共産主義」が「全体主義」だったことも分かり、彼らが「共闘」しようとしていたフランスの「労働者」たちも「共産党」を離れて、大量に極右国民戦線に投票するようになった。
極左活動家にとってはそれは「裏切り」だった。

そこで彼らは、極右になびく労働者たちから離れて、「共闘」の対象をフランスのムスリムに方向転換したのだ。

フランスのムスリムは、かつてのプロレタリアのようにいまだ未分化の潜在的力であって、イスラム過激派は彼らの「政党」のように見えた。
彼らはプロレタリア階級のように貧しい地域で生まれ、社会的に将来を閉ざされて、共和国市民よりもムスリムであるというアイデンティティを持つようになった。

そこで、非ムスリム労働者を極右に奪われた左派知識人の一部が、ムスリムの庇護者として、かつての「支配者と被支配者との戦い」を「イスラモフォビーとムスリムの戦い」すり替えてムスリムと「共闘」するようになったのだ。

その背景には、イスラエル植民者によるパレスティナの支配を弾劾する伝統的な親パレスティナの運動もあった。1970年代、中東からはるか離れた日本にすら「日本赤軍」ができて、テルアビブ空港の銃乱射のテロを起こしていたわけだ。

イスラモ・ゴーシストの根は結構深い。
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by mariastella | 2017-03-03 06:20 | フランス
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