復活祭の前に昇天
フランスに戻って最初に耳に入ったニュースは、極左の大統領候補メランションの支持率が今になって上がっているということだ。
ほんとうに「システムを変える」という公約をしているのはメランションだという見方が出てきた。 社会党公認候補のアモンは気の毒に、オランドが秘蔵っ子だったマクロンを暗に支持している様子があるようで、伸び悩んでいる。 おもしろいと思ったのは、メランションの突然の支持率上昇のことが 「復活祭の前の昇天」 と形容されていたことだ。 フランス語の語順で行くと「昇天、復活祭の前に」となる。 昇天と言ったがascension は「上昇」という忌で、ascenseur というとエレベーターのことだ。 社会的地位の上昇もascensionという。 ところが、今は、復活祭の前の聖週間の真っただ中。 最後の晩餐の洗足式が聖木曜日、聖金曜日は十字架の道行きもある受難のクライマックス、土曜日の夜に火がともり、日曜の朝にイエスの墓が空になったのを発見する追体験。 キリスト教国ではクリスマスよりも大切なもので、フランスに限って言うと、少なくとも、チョコレートの売り上げだけは、今でも、一年中で一番多い時期だ。イースター・エッグはもちろん、イエスを表す魚型、鐘、ウサギなどありとあらゆるものが、町のすべてのパン屋さんに至るまで埋め尽くしている。 で、その復活のイエスが40日間、弟子たちの前に姿を現して、自分の死と復活がすべての人の罪を贖ったという福音を伝え、それを広めなさいと言い残して天に上がったのを記念するのが 昇天祭ascensionなのだ。 復活祭が毎年変わる(春分と満月のタイミング)ので、昇天祭も毎年変わって今年は5/24。 その10日後には集まった弟子たちの上に「聖霊」が「降臨」する。 復活、昇天、聖霊降臨の三つがセットとなってキリスト教の信仰が生まれた。 だからこの3日間はフランスの祝日となっている。復活祭と聖霊降臨は日曜日に当たるので月曜が休日となる。 昇天祭は必ず木曜日なので、多くの学校が金曜も休んで四連休を作る。 で、気候がいいこともあって、復活祭、昇天祭、聖霊降臨祭の三つはキリスト教徒でなくともしっかり順序通りにインプットされている。 まず「復活」しないと「昇天」できない。 今、復活祭を前にした聖週間で、それなのに、メランションの支持率が上がったから、 「復活祭の前に昇天祭」という、言葉の遊びが通用するわけだ。 この他に、マクロンとメランションらについて、ラ・フォンテーヌの寓話もあちこちで引用されている。日本でもアリとキリギリスなどで有名なラ・フォンテーヌの寓話は、フランスの学校では必ずいくつかは「暗唱」させられる基本教養だ。 その他に、大統領選をめぐって、哲学者たちの言葉も引用されて飛びかっていた。 フランスはバカロレアで哲学の試験がある国だ。 与えられた課題について4時間かけて、意見を述べなくてはならない。 どんな優秀な答えでも、「先人」哲学者の言葉や意見の引用がないと減点される。 すべての高校3年生の必修科目だからいろいろ本も読まされるし叩き込まれる。 この辺の基本教養を共有しているから、フランス人はどんな人でも滔々と屁理屈を並べ立てる妙なスキルがあるのだし、社会問題や政治問題にも広く応用される。各種コメントのヴァリエーションも豊かだ。 日本から帰ったところなので、改めて不思議な感じがした。 なぜなら、私が帰る前日の日本のテレビは、あるフィギュアスケート選手の引退の特集ばかり繰り返し繰り返し流していて、それについてのコメントも、あまりにも同じようなものばかりだったのに驚いていたからだ。フランス的な感覚からいうとよほどの公的人物の追悼番組かと思うくらいだ。 日本のマスメディアに流れる言説があまりにも単純なことが、毎年加速しているようなのは気のせいなのだろうか・・・・
by mariastella
| 2017-04-14 01:21
| フランス
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