こんの げん さんの作品を見て考えたこと
新宿のルミネ・エストでこんの げんさんの作品が展示されていたのに遭遇した。
すごい迫力の動物の面などで、どこの古い廃墟の彫刻の展示なのだろうと思ったら、現代の作品で、それが2011年に火災にあったものだと聞いて驚いた。 とても魅力的で強烈だ。 火災以前の状態での展示の写真もあったので、それを見るといろいろと考えさせられた。 ただの歳月による風化などではなく 一種の不可逆の暴力性というものがここまで、クリエートに跡を残すとは... 置かれていたノートに感想を残そうと思ったのだけれど、どうしても、作家自身がこの衝撃(暴力と創造)をどう受け止めてこれを新たな作品として発表したのかをまず知りたく思った。 たとえば、これにヒントを得て、別の作品をわざと燃やそうというやり方は絶対にしないような気がする。 暴力にさらされた後に残った、というより、それに対抗するように作品の中から噴き上げて来た生命力、外の炎に誘発された中の炎の一回性、というものを感じる。 このことによって、アーティストのそれからの制作に何か変化があったのか、ということにも興味がある。 で、このことをこんのさんに質問してみたら、次のようなお返事をいただいた。 転載してもよいとのことなので紹介する。 >>>問に答える前に、私の仕事上での基本的な考え方を説明させていただきます。 2001年より「同質な異質」というタイトルで活動を続けてきました。ちょっと大きな話になるのですが舞台は宇宙です。 無限の「異質」な物質で満たされていると思われる宇宙は、その構成する組成は100あまりの原子なのだそうです。更につきつめれば粒子に.......というように細かくすればするほど「同質」に近ずくように思われるのです。「異質」なものは「同質」であり「同質」は「異質」を作るというイメージを持つようになりました。 また、「今」という静止した瞬間はなく、存在すべての生成や消滅は生物も無生物も区別なく、「生まれる」や「死ぬ」を含めて、それは始まりでも終わりでもなく、一瞬も同じ形でとどまることのない重層的な変化や循環の過程だと思います。 このようなイメージを作品にしようと思い、誰にでもわかりやすい「たとえ話」の彫刻を作り続けているのです。「異質」の存在を表すモチーフは何でもよかったのですが、無限にある対象の中から主に選んだのは人間です。作る自分が人間だからというだけの理由です。「同質同形」の木のユニットを積み上げて接着したものを削り、「異質異形」の人間等を作り出し、普く全体へのたとえにしようと思ったのです。 「同質」から「異質」への生成の場面ばかり制作してきたのですが、なぜか違和感をかんじていました。「でもまあ作ったものよりも作るにあったっての考え方自体が作品なのだから、まあいいか!」と思っていました。 図らずも人為を超えた消滅してゆく作品が手に入ったので活用させていただいたわけです。但しこの作品群は私の作品ではありません。宇宙が作った宇宙の作品です。 自分の作品でないもので個展をやる。なにか後ろめたいような気もしますが、愉快でもあります。 私は作品は作り手の意図よりも見て頂いたときに意味を持つ(完成する)と思っていますので「魅力的」「迫力がある」という評価をいただきとても嬉しいです。 「この衝撃(暴力と創造)をどう受け止めてこれを新たな作品として発表したか」についてはすでに答えさせていただいてしっまたようにも思いますが、私の制作態度は、「宇宙の神秘」とか「驚異」というような感性に根差すものではなく、エネルギー保存の法則的なイメージに根差すものです。ですからきわめて淡々と受け止めて,また発表もさせて頂いております。 人間の側から事象を見るのではなく宇宙の側から事象を見るということなのでしょうか、 これからも基本的なことに変化はありません。工夫をしながら制作を続けていこうと思います。<<< 以上がこんのさんからのご丁寧なお返事だ。 以下に、それについての私の感想(こんのさんへの返事をまとめたもの)を入れておく。 *** 同質同型の木のユニットから、というのは見ていたので、なんとなく理解できる。 前に山田廣成さんという方の「量子力学が明らかにする存在、意志、生命の意味」という本を読んだ時のことを思い出した。 彼は「電子」にまで遡り、電子には自由意志があること、 そして意志とは「個体を統合する力を有する実体である」と定義する。 そして意志とは「他者から己を区別する力を有する実体」でもあり、 「他者と対話し干渉を起こす実体である」でもある。干渉を起こさなければ意志を有する意味はない。 個体同士は干渉し、認識しあい、自分を置くべき位相空間を決定する、 意志の振る舞いは確率統計原理にふるまう、確率現象は個体に意志と個性があるから発生する。 同じ電子は一つもなく、少なくともエネルギーが異なり、異なる位相空間に存在している。それが電子が意志を持つことと同義だ。人間だけではなくいかなる個体も何らかの意志決定をして存続している。個体にも意志にも階層性があり、位相空間での位置を決めるのは決定するプロセスの複雑さである。 こう考えると、こんのさんの「同質が異質を作る」というのはやはり偶然ではなく、関係性と意志の問題であり、最初の作品に働いたこんのさんの意志の上に、火災という熱と酸化作用が働き、すべての関係性が変化した、位相が変わった、のだと思える。 その変化が可視化されたところが、火災後の作品のインパクトを作っているのではないだろうか。 つまり、火災前の形の上に加えられた暴力によって、こんのさんの追求してきた「同質と異質」の関係が可視化したということだ。 人間の創造行為にとってほんとうに刺激的な問題だと思う。(続く)
by mariastella
| 2017-04-16 04:41
| アート
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