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L'art de croire             竹下節子ブログ

マクロンのカミングアウト?

フランス大統領選第一次投票でトップに立った夜、「ブリジットとエマニュエル」の名で関係者にSMSの招待状が送られて、貸し切りになったモンパルナスのブラスリー《ラ・ロトンド》でマクロンを囲む祝賀パーティが開かれたことについて、世間の風当たりは厳しい。

それがあまりにも、10年前に大統領選に勝利した後にサルコジがシャンゼリゼのフーケで催したパーティを彷彿とさせたからだ。サルコジはその時に財界人や有名人に囲まれて、セレブ好きのスノッブであることを「カミングアウト」したと言われた。

不思議なことに、その後も、サルコジはアメリカのセレブのヨットでバカンスに出かけたり、メルケル首相なら一発で辞任に追い込まれると言われた行状を繰り返したにかかわらず、彼のポピュリズムに与した大方の庶民の反感をあまりかわなかった。セレブの豪遊ぶりをグラビア雑誌で追い続けるのが普通になっていた庶民が、「なったつもり」で楽しむことに慣れていた時代だったからだ。

マクロンは、「移民の子」だというのを売りにしたサルコジに比べると、ある意味でフランス人らしいフランス人で、エリートコースを歩んでいるので、社会的な「サクセスストーリー」を演出するのは難しい。それでも持ち前のカリスマ性を発揮して、つい3週間前には地方で「苦しむフランス」へのスピーチをして労働者に感涙を流させた。

それなのに、まだ最終投票までに2週間あるというのに、派手なパーティをやってその模様が映されたのを見て、裏切られたという気になった人もいる。
インタビューされたスポークスマンは「いや、これはシャンペンを開けるようなお祭りではなく、第一の関門を突破したまじめで慎重な祝いだ」という趣旨の返事をしていた。
ところが、映像はシャンペンが開けられるところを映し、1.5リットルのマグナム瓶が50本開けられたと伝えられた。

ロトンドはオランド大統領の選対本部とも縁のある場所だからそれなりの理由で選ばれたのだろうけれど、こうなると、メディアは、1981年に社会党のミッテランが最初に大統領に選ばれた夜に、バスティーユ広場に集まった人々の祝いに合流することをせず、社会党本部の職員にあいさつしただけで自宅に戻ったことと比較する。

(でも私の記憶ではあの夜は雷もともなう嵐になったので、ただ濡れたくなかったのかも。保守支持の知人が、ミッテランが当選したことで神が怒って雷になった、と言ったことを覚えている)

マクロンは、選挙に出る政治家としてはゼロから出発したわけで、「前に進むすべての人々にオープン」にと叫び続けて、彼に続く人がだんだん膨れ上がっていったことで、「ナザレのイエス」にもたとえられて揶揄された。

そのグループも「En Marche!」と、「!」込みの名前で、日本でも最近「句点込み」のグループ名などが普通に使われるようになったけれど、私の世代には違和感のある命名だ。
「進め、ナントカ少年!」のようなノリだ。
サルコジにはない発想だと思う。

18歳から24歳の選挙人はメランションの支持が目立った。
マクロンの支持者は、まさに、彼の世代、アラフォーを中心とする「新世代ブルジョワ」だということだ。ネーミングも、マーケッティングの福音派風の手法も、何もかも、うさん臭いというよりはそれが普通である世代なのだろう。

私は幸いこの世代と親しいので、彼らの生きた時代を彼らの目から眺めることもできるから、理解できることがかなりある。私がフランスで生きてきた40年と重なるので同時代性もある。
ほぼ同世代であるサルコジなどの方が、私の知らないフランスで生まれ育っているから共有しないものが多い。第二次大戦の後の復興や68年五月革命などの激動の時代は私にとって伝聞である。
今と違って、日本とフランスの情報の距離は遠かった。

そんなこんなでマクロンのプラグマティックな背景はなんとなくわかる。

それに比べると、マリーヌ・ル・ペンの方は、私にとって宇宙人みたいだ(猫好きということを除いては)。ジャン=マリー・ル・ペンのような強烈なキャラクターに洗脳されて育ってきたような人だから特殊だ。

決選投票の棄権率はどうなるだろう。

第一回投票は「大統領になってほしい人」に投票する。
決選投票は、第一回投票で入れた人が残らない場合は、「大統領になってほしくない人」を排除するために投票する、と言われる。

しかし、第一回で敗退した「大統領になってほしい人」に忠実でありたい人は、決戦では棄権したり白票を投じるという。
第一回で棄権する人は「市民の義務」を怠るという側面があるが、
第二回で棄権する人は、自分の信念に忠実な「殉教者」意識があってそれは「信仰告白」なのだから、棄権することに誇りを持っているなどとも言われるのだ。

今回の場合は、メランション支持者にそういう人が目立ちそうだ。
ル・ペンとメランションはEUへの姿勢などでかなり共通しているが、だからこそいっしょくたにしてほしくない、という気持ちがある。だからと言って、全く対極にあるマクロンを支持することなど到底できない、というわけだ。大統領選はスルーして6月からの議会選挙に向けて始動ということだろう。

二週間後、マクロンの組閣の仕方、議会とのかかわり方、社会党や共和党とのかかわり方、などをじっくり見て、FNや共和党、メランション、社会党のリアクションを観察するのが楽しみだ。
by mariastella | 2017-04-25 19:09 | フランス
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

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