L'art de croire             竹下節子ブログ

大統領戦 こぼれ話

フランスの大統領選、結構日本でも関心を持たれているようなので、サービスにまた、本日二度目の更新です。

候補者が二人に絞られたので、いろいろなエピソードが流れてきた。

マクロンの経歴だが、リセの時代から、将来伴侶となるフランス語教師ブリジットとだけではなく、多くの教師とばかりディスカッションしていて同年配の生徒とはつるまなかったそうだ。なんとなく分かる。すでに脳内大人だったのだろう。
そして、バカロレアはS(理科系。数学の比重が大きい。フランスは特性や志望とは別にともかく数学の点数で上からコースが決まる)で、平均 18/20 以上の「最優秀」お墨付きで通った。だからパリの名門アンリ四世校のプレパにも入れたのだけれど、最難関の高等師範学校の受験には失敗している。その後パリの政治学院に行くのだけれど、ここは、バカロレアで「最優秀」の点数があれば基本的に無試験で入れる。国立ではない。そこから国立行政学院ENAに入るのだ。

しかし共和国の最優秀の人たちには、高等師範学校(数学物理もある)やポリテク(前も書いたがエンジニアといっても要するにエリート養成学校)を経由した後でさらに政治学院やENAに行く人もいるので、マクロンは、別に挫折なしの「超エリート」ではなかったということが分かる。日本人はもちろんフランス人だって普通の人には分からないようなランキングなのだけれど。

一方のマリーヌ・ル・ペンは、パリ大学の法学部を出て弁護士なので日本的に考えたらエリートに見えるが、ヌゥーイ―・シュル・セーヌの裕福な家庭に育ってバカロレアB(今のES、すなわち経済系)を受けたというだけで、理系バカロレアを受けるほど成績が良くなかったと分かる。
しかも、ストレスでパニックに陥って、「市民には抵抗権があるか?」というテーマの哲学の試験で4/20の点数しか得られず、全体でも10/20に届かなかったので追試験を受けて何とかパスしたという。バカロレアさえあればパリ大学の法学部に登録することは簡単だ。まあその後で多くが脱落するのだが、そこは、順調に修士に到達、刑法の学位、弁護士資格と登録にまでこぎつけた。

気の毒なのは彼女はすでに父親ジャン=マリー・ル・ペンの影響をしっかり受けていたし、その平凡ではない名前(出身地であるブルターニュのモルビアンあたりの名でpeenは異教徒という意味もあるらしいから皮肉だ。漁師であったジャン=マリーの父親は海で死んでいる)から、あの強烈なキャラの父の娘だということは誰からも知られていた。もっともそれでいじめられるというようなキャラでないのはもちろんで、父親と同じくらいに戦闘的、挑発的だった。社会党のミッテランが大統領になった翌日は「フランスの喪に服する」ための黒い腕章をつけて学校にやってきたという。その年の大統領選は、公認候補に必要な500人の市町村長の署名が得られず父親は立候補できず、党員たちに決選投票は「ジャンヌ・ダルクに投票しろ」と言っていた。1984年の両親の離婚の後、末っ子のマリーヌはますます父親の活動をサポートするようになる。

私はいつも「人間」が好きなので、どの人がどういう経歴でどういう生き方をするに至ったのかにとても興味がある。
だから、今回の2人のようにキャラのたった人たちを比べるのはおもしろい。

ただ、予想されていたとはいえ、いよいよ決選投票に2人が残ると、なんだかいやな感じが戻ってきた。

それは、2007年のサルコジ対セゴレーヌ・ロワイヤルの決戦、そしてついこの前のトランプとヒラリー・クリントンの決戦のことを思い出したからだ。

はっきり言って、このレベルで「男と女」が戦うと、ジェンダーや差別や「見た目」に対する偏見が、さすがに大っぴらではないけれど、表出してくる気がするからだ。

直接選挙ではないドイツのメルケルやイギリスのテレサ・メイなどの場合とは違う。

といっても、「トランプとクリントン」と「マクロンとルペン」は全く違う。

トランプは結婚3回のビジネスマン、子供もたくさん、
クリントンは元ファーストレディ。

マクロンは10歳上のルペンよりもさらに10歳以上も年上の妻と二人三脚で、自分の子は持たず、元経済相。
ルペンは2度離婚して今は事実婚状態で子供3人。

それなのに、たとえばトランプが女性蔑視発言をしても糾弾されず、「頼もしい」とさえ見られたり、
クリントンは余裕がなく狡猾であるかのように見られがちだった。

マクロンは、トランプのような「貫禄?」はもちろんないが教祖風、ナルシスト風。
ルペンはいわゆる「女性枠」ではなく、あくまでも「二代目」リーダーで自信満々、押しが強い。

ところが、毎日この2人の画像がメディアで繰り返し流れると、なんだか、

「オバサンよりもフレッシュな若い男がいい」

というサブリミナルなメッセージを受ける。

政治的には、「ルペンよりマクロン」というのは共和国コンセンサスに近いのだからいいのだけれど、
映像的にはすごく微妙だ。

2人の立ち場とか2人のビジュアルが逆だったら意識下ではどういう展開になるのだろう、と思ってしまう。

日本の都知事選では女性候補がジャンヌ・ダルクだとか言って見事に当選したのが記憶に新しいけれど、マッチョな日本の方が意外に意識下では「強い女」を頂く願望があるのかなあ。

(次の記事ではもっと本質的ことを書きます)
(もしローマ法王にフランスの選挙権があったなら? というテーマも続きます)
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by mariastella | 2017-04-26 19:16 | フランス
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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