L'art de croire             竹下節子ブログ

ふたりオイディプス

(ただの雑感です)

朝起きて日本のネットニュースを眺めたら、フランスの大統領選がトップに上がっていた。
たいてい英語圏のニュースからの流れだろうから、アメリカで話題になっているということだろう。アメリカはトランプ・ショックから立ち直っていないし、普通はフランスより時差的に「遅れている」場所だけれど、フランス本土の午後8時までに集計されていなくてはならないのでアメリカでの「在外投票」は1日前に行われている。
夕べのフランスのニュースでも、アメリカやカナダの大使館などでひと足早く投票する在外フランス人の姿が映されていた。在米フランス人の第1回投票では、マクロンが55%ですでに過半数だったという。

グローバルな活躍を支援するマクロン出なければ困る、というのは理解できる。
そういえば在日フランス大使がル・ペンが大統領になれば辞職する、とツィートして、そのことを在米フランス大使が「よく言った」と賛同のツィートをしていたっけ。

官僚が民主主義に反対するのはおかしい、という批判ももちろんあったけれど。

今日の結果が楽しみだ。
何があっても、それにまつわる人々の反応を観察するのが好きだから。

マクロンもル・ペンもどちらも嘘つき、信用ならない、与したくない、という人がよく口にするのは

「ペストとコレラのどちらかを選ぶなんてできない」

というセリフだ。 メランションの支持者から発せられた後、一気に広まった。
ペスト(la peste )が女性名詞でコレラ( le choléra )が男性名詞なのでぴったりはまった。日本語の「目糞鼻糞」なら侮蔑的だけれど、ペストとコレラは脅威で恐れを搔き立てる。これもポピュリズムの時代に合っているという感じ。

もう一つ笑える比喩は、ポピュリズムよりも少し「教養?」を必要とするもので、

ル・ペンとマクロンは

「父親を殺した者と母親と結婚した者」

というものだ。

ギリシャ神話のオイディプスのことで、子供に殺されるという神託を受けて、生まれた息子を棄てた王が、結局、成長した息子オイディプスに、そうとは知らず殺され、
さらに、オイディプスはやはりそうとは知らず実の母と結婚してしまう。
フロイトが唱えた「オイディプス(エディプス)コンプレックス」で有名で、息子はシンボリックに父を否定することではじめて大人になる、というような文脈でも使われる。

マリーヌ・ル・ペン女子は、FNの創立者である自分の父を追い出す形で、父に次いで15年ぶりの大統領選の決選に進出した。

マクロンは24歳年上の女性と結婚した。(実の母親はブリジット夫人より3歳上。マクロンは幼くして死んだ長女の後に生まれた第二子)

で、シンボリックな「父殺し」と
シンボリックな「母との結婚」で、

2人合わせて「オイディプス」だって。

まあこの2人にとって、

生まれた時からの父との関係、
15歳で始まった母の世代の女性との関係、

は人格形成において大きなウェイトを持つことは想像に難くないから、
「ペストとコレラ」よりはうがった揶揄かもしれない。

そういえば、今はマクロンを応援している母親も、最初の頃は、マクロンの新党?『En Marche!』(歩き出せ!)を揶揄して、マクロンは満2歳になるまで歩き出さなかったので笑える、などと雑誌の中で語っていた。

でも『EM!』と略するとエマニュエル・マクロンのイニシャルになるようにできていて、理念や目的でなく「方向と進行、流れ」を強調するマクロンが若者にアピールする力を持ったネーミングだった。
まさか実の母にこんな突っ込みをされるなんて想定外だったろうな。

さあ、今日はルイ14世のおかげで生まれたバロック・オペラ『アルシーヌ』に出かける。音楽や演劇、舞踊の分野はもともと国際的だ。
このオペラはフランス・バロックだが、指揮のジョルディ・サバルはスペイン人、コンサート・マスターはドイツ=アルゼンチン人、チェンバロはフランス人、で、出演者全部の国籍は多様だ。ル・ペン女史の言うように「外国人を雇うと税金を課する」ような世界になるとアートや学術、イノベーションの世界はやっていけない。

ジョルディ・サバルのオーケストラの名は「コンセール・デ・ナシオン」。クープランの「les nations」に由来する。「国家」は複数だ。国教のない音楽(この世と異界との区別もない!)を意識していたバロック音楽にふさわしい。


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by mariastella | 2017-05-07 17:59 | フランス
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