L'art de croire             竹下節子ブログ

ウィーンの話 その4

シュテファン大聖堂の「宝物館」には、工芸として立派な祭服だの聖体容器、聖杯、聖遺物入れなどの他にカトリックのフォークロリックな「聖遺物」がたくさんある。

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十字架を担いでゴルゴタへの道を行くイエスの顔を拭ったヴェロニックの布だとか、

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最後の晩餐のテーブルクロスだとか、

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イエスの十字架の木の一部だとか、

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茨の冠の棘だとか、

こういうものって、例えばヨーロッパ中にある十字架の木の聖遺物を合わせると森ができると言われるほど、どこにでもあるといえばある。たいていは、4世紀のコンスタンティヌスのあたりから、エルサレムに行っての「聖遺物収集」が始まって、それがイタリアやコンスタンティノープルで崇敬されていたものが、十字軍の時代にコンスタンティノープルから収奪してきたということになっている。
また、神聖ローマ帝国の皇帝やヨーロッパの王とローマ教皇とが対立していた時に何度も侵略や戦争があったので、フランス王やらドイツやオーストリアの王、皇帝、選挙候などもイタリアの各地からメジャーな聖遺物を収奪したりしている。
ケルンの大聖堂などはミラノから略奪した東方の三博士の遺骨を納めるために建設されて、その威光でローマに肩を並べるほどの大巡礼地となった。つまり経済効果があったわけだ。
十字軍の騎士たちに「聖遺物」を売りつける商人たちも跋扈していた。
存在が確認さえされていない三博士はもちろん、あきらかにでっちあげやら真偽のあやしいものはたくさんある。
しかも、手に入れた経緯は略奪やら時には他の巡礼地から盗み出すなど、到底、立派な行いとは言えないものが多く、これらこれらの夥しいメジャーな聖遺物は、巡礼者に宣伝するのは別として、基本的にひっそりと、つまり、本物であることを「強調する」とか「証明する」というようなロジックと別のところで祀られている。

これらの聖遺物を「本物」にするのは、巡礼者、信仰者を集める「実績」であり「ご利益」や「奇蹟」の「実績」であるからだ。聖遺物は崇敬されることで「本物」になり、崇敬による一種の集団サイコエネルギーみたいなものが、「奇跡の治癒」を生み出していく。

中世の人間とはいえ、本気でこんなものをありがたがっていたものだろうか、とその本気度を疑いたくなるかもしれないが、当時の王侯貴族が「毒消し」のために食器や飲み物入れに異常な神経を使っていたことを見るとそれが別の角度から分かってくる。彼らは常に毒殺されるリスクを抱えていて警戒していた。だから食器やカップなどを毒消しの効果のある動物などで装飾したり、毒消しの効果のあるとされていたヤギの胃の石灰化したものをくりぬいて金細工してコップにしたりしている。

医学の発達していない時代に、病気や怪我や中毒などは神罰やら運命やらに一撃される不可抗力の恐れだった。
いいというものにはすべてすがってみる、というのは信仰や迷信というよりもっと実存的な欲求だったのだろう。

このような聖遺物崇敬の「迷信」はプロテスタントから一笑に付され、一掃されたわけだが、ましてや明らかに出自のはっきりしない聖遺物について、今のカトリック教会はもちろん大っぴらに宣伝するわけもないし、新しく公認された「聖人」の真正の「聖遺物」だって、「それがどうした?」と部外者に言われればそれまでなのだから、中世の王侯経由で聖堂や修道会に伝わるコレクションについては、崇敬されてきた歴史を尊重するだけで、「真偽」を問うようなことはしない。

で、この大聖堂が捧げられたイエスの使徒ステファノ、聖シュテファンの聖遺骨はどこに?どこに? (続く)

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by mariastella | 2017-08-12 07:10 | 宗教
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