L'art de croire             竹下節子ブログ

命を狙われて生きるということ

テレビのインタビュー番組で、2015年のシャルリー・エブド襲撃テロ以来、ジハディストからひどい言葉で「死刑宣告」を受けているフランス人とモロッコ人のハーフの女性ジャーナリストで宗教社会学者のZinebが話しているのをみた。

カサブランカ生まれで、彼女の共同体のイスラム教が女性を劣位に見なしているというその一点で、早くからイスラム教を丸ごと捨て去ったという。
すごく明快だ。

純潔を守って善き妻となり金曜日ごとに夫の家族をもてなさない女は、即「遊び女」とみなされる。
17才半でモロッコから抜け出した。

宗教社会学などはパリで学んだ。
モロッコの刑法ではラマダンの期間にムスリムが正当な理由なしに公の場所で飲み食いすると罰金と6ヶ月の懲役が制定されている。それに抗議して2009年に、ラマダン中にピクニックすることを呼びかけるなどの活動で官憲に追われ、スベロニアに亡命し、シャルリー・エブドに記事を書くようになった。

当時のシャルリー・エブドは破産寸前の苦しい経営だったけれど、編集長のシャルブらが自分たちの給料をカットしてまでZinebを正式に雇い入れてフランスに招いたのだそうだ。

それは初耳だった。

テロの日はカサブランカにいて襲撃を免れたが、「ムスリム女性」(父親がムスリムのモロッコ人なので自動的にムスリムとなる)でありながら冒涜的なシャルリー・エブドに加わっているのだから、過激派にとってはZinebは万死に値する。

で、2015年に生まれた娘を抱える身で、身の安全のためにパリのアパルトマンを転々としながら外では完全に警護されて暮らしている。

「一歩外に出たら自由ではない」という逆説的な状況。

まだ35才だ。

人はどの時代にどの国に生まれるかは選べない。

私は生まれた国には住んでいないが、不思議なことにあまりカルチャーショックがなかった。

日本にいた頃に主婦連だとかウーマンリブとかいう活動は知っていたが、身近の女性はみな不当なくらいに優雅に暮らしていた。女性であることはちやほやされることはあっても、社会の中で差別に向かい合うほど長く日本にいなかった。
日本の社会に女性差別があるのは分かっていたけれど、それは分かりやすい「宗教」の文脈などではなくて、漠然とした同調圧力みたいなものだったから、「戦う」とかいう対象にはならなかったのだろう。

でも、フェミニズムにかかわることで「死刑宣告」を受ける文化があるのだ。

フランスのテロはその後「無差別テロ」や「警官、軍人」を標的にしたテロへとシフトしていっているので、私たちは「シャルリー・エブド」事件の記憶を風化させてしまっている。

名指しで死刑宣告された一人の女性は、もう大勢の同志と「連帯」して通りを行進することはできない。

昨日の記事で書いたACT UPの若者たちも、エイズという病によって理不尽に死を宣告されたが、団結することはできた。

Zineb女史の孤絶を思うと愕然とする。

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by mariastella | 2017-09-07 02:50 | フェミニズム
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