L'art de croire             竹下節子ブログ

連続テロから2年、今のパリのテロの危険性は?

最近、パリの連続テロから丸2年ということで、13日のニュースでは犠牲者の話を聞いて感極まるという表情のマクロン大統領の顔が何度もクローズアップされていた。


そういえば去年の1周年にはこんなにメディアに取り上げられなかったなあ、というのは、去年の夏のニースのテロの方がまだ生々しくて、日付も革命記念日の7/14だったから、まだ11月の段階では、14日が事件後4ヶ月という取り上げられ方をしていたので、13日の「記念日」の影が薄かったのかもしれない。


2年前のテロは、まだシリアのIS軍が司令塔になっていて、難民としてヨーロッパに入ったジハディストなども動員した「組織テロ」だったけれど、去年のニースのテロはそれ以来デフォルトのようになった「ISに触発されて勝手に過激化した一匹狼」のカテゴリーだった。


この方が、事前に見つけ出すのが難しい。


今年は、ちょうどイラクとシリアのテリトリーからISが駆逐されたタイミングなので、一見、「テロに勝利した」のように見えるが、実は、政府軍がラッカを奪還する時に、ジハディストたち数千人が堂々と車列を組んで出ていく映像が最近映されて衝撃を生んでいる。


テロとの戦いを「戦争」と呼んでいたのだから、普通の戦争ならばこの段階で相手の「戦士」はまとめて捕虜になるはずなのに、見逃しているわけだ。


ISは一般人を盾にして道連れにしようとしていて、ラッカではすでに一般人への被害が大きかったから、政府軍は、ISと取引をしたということらしい。石油の引き渡しなども関係しているだろう。結果として、一般人を残して出て行ってくれれば見逃すということになった。だから少なくともIS軍一部はトルコに入るだろうし、そこからヨーロッパの「出身国」に戻る者も少なくない、と言われている。

いや、ラッカなどが「陥落」する前から、ISで培ったノウハウや武器をもとにして「聖戦」の拠点をシリアから欧米の不信心国での個別テロに移すとして「戻ってきた」あるいは「難民として流入した」ジハディストとその家族をどうするか、というのはもうかなり前から大問題になっている。子供も8歳未満は危険がないが、それ以上は洗脳を解くプログラムが必要だ、など。


先日Arteのドキュメンタリーで、シリア系アメリカ人やら、シリアとドイツを行き来しているシリア人(ドイツ生まれのドイツ国籍だが反アサド政権に共鳴してシリアに行き反政府軍として戦っていた。その後ISの流入後にドイツに戻った人)らが、難民収容所にいる「危険人物」の一人ひとりに密着してその危険度を測っている様子を流していた。

難民と認定されてドイツに受け入れられたのは、ISの兵士ではなく、もとの「反政府軍」の兵士だった若者だ。彼はアサドの兵士として徴兵された時、同国人を殺戮する命令を拒否して拷問され、逃げ出してアサド政権に反旗を翻した人だった。最初はこの反政府軍が、非人道的なアサド政権を非難する「国際社会」の支持を得ていた。


そこにIS軍がやってきた。彼らもアサドを倒すという。反政府軍の多くがISに入らないままで彼らと共闘することになった。でも第一の理由は、ISに金があったからだ。もともと苦しい戦いを強いられている反政府軍の兵士は、安定してISからもらえる「給料」になびいた。イスラム原理主義への洗脳も同時に行われただろう。

ドイツで難民の危険度を測るシリア人も、もと反政府軍にかかわっていた人で、反政府軍の全リストを持っている。その中で、ISに追われてすぐ亡命したのではなくISと共闘してからドイツに難民として入った者を徹底してチェックしているわけだ。


同じシリア人として何度も話し合い、本音を引き出し、ドイツで個別テロをするリスクが高いかどうか、の判断を下す。

一人一人に長期間の観察でこれだけの時間をかけなければならない。

気の遠くなるような作業だ。


でも、いやしくも一人の人間が他の人間を「聖なる確信をもって殺す」ような精神状態に一度でも追い込まれたのだとしたら、その一人の人格の底に分け入っていくのは並大抵の仕事ではないのだろう。

同じいろいろな体験をしてきたシリア人同士だからこそそこに踏み込めるし、理解もできるのだ、とこの番組を見ていて思った。


同時に、例えばフランスだけでも何百人も「戻ってきている」テロリスト予備軍にどう対処するかというのは、諜報の精度、収容場所の不足、専門家の調達、予算、時間などさまざまな問題が山積みで、結局は、これから一匹狼的なテロがまた起こる可能性はこれまでよりはるかに大きいと言われている。


まずい時にまずい場所に居合わせたら、これからもだれでもテロの犠牲になり得るということらしい。


それでもたくましく生きているフランス人がほとんどなので救われる。

ミサイルからの避難訓練などをさせられるよりよっぽどましだ。


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by mariastella | 2017-11-18 01:59 | フランス
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