L'art de croire             竹下節子ブログ

ワインスタインと伊藤詩織さん

前に、「詩織さん事件」について、書こうと思ったけれど書けない事情を記事にしたことがある

今は「伊藤詩織」さんとして検察、警察などのブラックボックスについて著書を出して、決して追及をやめず、他の被害者のためにも役立とうとしているのが分かる。

彼女を応援する人も多いと思うけれど、ネットなどで見ると、ハニートラップだとか、「反戦派=左翼=在日」認定など、あまりにもひどい「セカンド・レイプ」の典型のような誹謗中傷が少なくないことに驚く。

前の記事に書いたように、私はこの件について距離を置こうと思っていたのだけれど、このごろ、すごく気になることがある。それはハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインが女優やモデルなどからセクハラ行為で訴えた事件が拡大したことだ。


大物女優も声を上げたし、他の監督や有名俳優への告発も芋づる式にどんどん出てきた。

フランスでもこの話題は広がって、それに触発されて、SNSで、私も犠牲者だ、という告発合戦が始まった。


イザベル・アジャーニは、フランスでの女優へのセクハラには別の偽善的な恋愛ゲーム文化がある、と分析している。

"En France, il y a les trois G: galanterie,grivoiserie, goujaterie"

"glisser del'une à l'autre en prétextant le jeu de la séduction" fait partie des"armes de l'arsenal de défense des prédateurs et des harceleurs".

"Laissons savoir à ces messieurs que les actrices,tout comme les ouvrières, les agricultrices, ou les ingénieures, lescommerciales, les institutrices, les mamans ou les putains sont toutes libresde baiser, libres d'avorter. Et libres de parler!".

暇がないので訳さないけれど、女優だけでなく、すべての女性の尊厳と自由に関わることだと述べている。セクハラが「力関係」だけではなくギャラントリーを透過して担保されるような文化背景がフランスにはあるというのだ。

ともかく、セクハラだけでなく、汚職、忖度、身内びいき、体罰などの「事件」が「発覚」する度に、

こういうのは氷山の一角であって、

昔からあった、

どこにでもある、

程度の差こそあれだれでもやっている、

文化、習慣、伝統の一種で、暗黙の合意がある、

というような言説が必ず出てくる。

そのような体質の社会で、ホテルの従業員などではなくて、すでに名を成した大女優だの、詩織さんのように若くて美しくて知的な女性だのが堂々と告発し始めるというのは、勇気もあり、説得力もあるやり方だ。

で、私が不思議だと思ったのは、ワインスタイン事件が日本でも話題になっている割には、例えば日本の大女優がプロデューサーらを告発し始めたという話を耳にしないからだ。

女優でなくとも、若い女性から仕事の紹介やいろいろな根回し、融通を頼まれた「影響力のある男」が、その「役得」として女性を誘ってみたり、セクハラをしたりというのは、決して例外的なことではないと思う。

アメリカに駐在中のTVのプロデューサーだとか政治の中枢に人脈を持っているというような人のところに、何か便宜を図ってもらえないかとコンタクトしたり相談したりする人は多いだろう。

それが若い女性であった場合にセクハラに向かうタイプの人であれば、「そういうことはよくある」のではないだろうか。詩織さんのケースが唯一の例外だとは信じがたい。

だから、ワインスタイン事件でこれまで黙っていた女性たちが「実は私も」と連帯し始めたのを見て、これで、「実は私もその人物からこういうセクハラを受けました」という声を上げて詩織さんを援護する女性が複数出てくるのではないかなあ、そしたら、状況は劇的に変化するだろうなあ、と私は思っていたのだ。


どうもそんな気配はない。


で、「もし、私だったら ?」と想像してみた。

うーん、日本で日本人の男性からセクハラを受けたことがあるとしたら、やはり「いまさら言いたくない」と思う。

で、フランスでフランス人男性からセクハラを受けたことがあるとしたら、「この際だから私も告発に参加しよう」と思うだろう。

この差はなんだろう。

おそるべし、日本文化の壁。


もし両親が生きていたら、お願いだからそんなことしないで、と絶対に言われる。

フランス人なら、少なくとも私の生きているカテゴリーの家族や友達なら、一緒に戦ってくれる気が満々だと思う。

昔、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」などと言う言葉があったけれど、「セクハラ」、「いじめ」、「体罰」、「身内びいき」を告発する赤信号をみんなで渡ろうということにはならないのだろうか。

この赤信号、道路交通法自体を見直す必要まで考えさせられる。


[PR]
by mariastella | 2017-11-24 00:05 | 雑感
<< 伊藤詩織さんと『パリのすてきな... CD とDVD の申し込み先です。 >>



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
以前の記事
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
カテゴリ
検索
タグ
最新の記事
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧