今年の春ごろから、パリの高速地下鉄RERのB線の北駅の壁に、何やら難しそうな数式が色とりどりの背景色の中に書かれたものが並んでいる。普通は特大の広告が貼られる場所だ。
このういうのとか
こういうの。
一見して何の数式かよく分からないし、なんとなく不完全な気もする。
でも、いったい何なのか気になって、人々は答えを探してホームを歩くことになる。
すると、突然「Shukuro Manabe !」とだけあるものが出てくる。
えっ、なんとなく日本人の名前らしいが、Shukuroってよく分からない。
その人が真鍋 淑郎(まなべ しゅくろう)という日本の気象学者で、今の地球の温暖化説を唱えた先駆者で有名な人だと後で確認する。
何十年もパリの地下鉄に乗っているけれど、日本人の名前だけが書かれているポスターなんてはじめてだ。
説明によると、これはれっきとしたアートで、2015年のパリの環境会議COP 21 を記念してLIAM GILLICK というアメリカ在住のイギリス人アーティストによる「連作」らしい。だから、複雑な数式にインスパイアされているとはいえ、全体としては「デザイン」、「モティーフ」だし、政治的メッセージもある御用アートといったところか。でも、かなり抽象的な数式をこうして並べて注意を引き、視線を動かすことには成功しているし、結果として印象は強烈だ。
イギリスのアーティストがパリのメトロに日本人の名前を書き、気象学の数式を並べる。なかなかシュールだ。