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L'art de croire             竹下節子ブログ

ジョニー・アリディとエディット・ピアフ

ジョニー・アリディとジャン・ドルメッソンの生と死の語られ方について、「たかが、かた」のブログ に投稿したら、多くのアクセスがあったのでここにその後の話を書いておく。(注:その後、正しい情報が入ったので、日付や場所などを訂正しました。12/9)


コメントでも、ドルメッソン自身が、コクトーの死がピアフの死でかすんだことを上げて、作家はスターと同時に死んではいけない、という動画を教えてもらった。

笑える。

それでもかろうじてジョニーより一日早く亡くなったドルメッソンの方は金曜日にアンバリッドでマクロンが追悼セレモニーをした。

で、ジョニーの方は、翌日にシャンゼリゼで700台のオートバイに並走される葬列がマドレーヌ寺院まで行き、そこでもマクロンが短いスピーチをするそうだ。

その後は、12日の火曜日に、パリから遠く、カリブ海にあるフランス領サン・バルテレミー(2008年から別荘を持っている)島の墓地に埋葬されるそうだ。

離婚と再婚を理由に教会での葬儀を拒否されたエデット・ピアフが10万人の群衆に囲まれて16区からペール・ラシェーズ墓地に直行し、今でも墓参の人が絶えない有名スポットとなったのは対照的だ。

ジョニーがカリフォルニアとパリ近郊の大邸宅に暮らし、死後はうんと遠くに埋葬されたかったことを思うと、莫大な財産を持つスターの本音とはどんなものだろう、と思ってしまう。

ピアフの方は莫大な借金を残して死んだ。

麻薬とアルコールでボロボロ状態で早く楽になりたい、と言っていたが、なんと、まだ47歳だった。ジョニーの74歳と30年近くの差がある。

ジョニーは、若い頃は不健康だったろうが、としを取ると共に筋トレしてマッチョな体からどんどん声量を増やしていった。

彼のファンは、そのエネルギー、迫力、力強さにしびれていた。

それに比べると一世を風靡した女性歌手は意外に若く死んでいる。

ピアフもそうだが、ダリダも54歳、日本なら越路吹雪56歳、美空ひばり52歳などだ。フランスではバルバラが67歳でエイズで没した。72歳で現役で活躍して講演活動もしているシェイラだとか、80代で啓蒙活動を続けているナナ・ムスクーリ(70歳で歌手引退を宣言している)などには、「堅実な幸せ」感がある。「力」で老若男女を惹きつけるという選択はない。

アイドルの栄枯盛衰には明らかにジェンダーの差があるような気がする。

ジョニーは多くの男たちのアイドルだ。夫婦で大ファンという人もたくさんいる。

それほどに熱狂的な女性ファンがいる女性歌手は思い当たらない。

宝塚のスターには熱狂的女性ファンがいるが、男性ファンは例外だろう。

熱狂的男性ファンがいる女性アイドルは「消費」されることが多い。特に、集団の熱狂は「消費」型だ。

熱狂的男性ファンというと、サッカーのサポーターも連想する。

男性ファンはジョニーやスター選手のカリスマ、強さ、男らしさに夢中になる。

女性のアイドルやスターに対しては、若さや美しさを愛でたり欲望の対象にしたりする。

ファンや、スターやアイドルを取り巻くポピュリズムには明らかなジェンダー差があるのだ。

そして何度も言うが、「強さを礼賛」することは、危険だ

見たくなくともいやになるほど流されるジョニーの舞台のパワーを見て、すなおにすごいなあ、と思う。

私はフランス・バロック音楽の奏者だ。音楽的には対極にある。でも、人は、「大きい音」「音量」に惹かれる。

特に、大勢が集まる場所(それは商業的に成り立つ場所ということだ)で大音量を聞きたい。百人のオーケストラとか、増幅される電子音とか、絶叫する歌手とかに夢中になり、連帯感を持ちたい。

サッカー・スタジアムで声を合わせて叫びたい。

そのことの不条理を感じる。

それこそドルメッソンはいいことを言っていた。

「深いものとつながっている軽さには美がある」

と言って、モーツアルトの音楽を挙げているのだ。

私がラモーに感じていることと同じだ。ドルメッソンならラモーの美しさを分かるだろう。

ジョニー・アリディをめぐる大騒ぎに対してこのようにいろいろ考えてしゃべる私に対して、私の周りの人間は

「興味がない、もうその話はしないでくれ」

と切り捨てる。

私は切り返す。

「ヒットラーが台頭した時に、ドイツ人の全員が熱狂したわけではない、でもその時に『興味がない』と無視した人がいたから、結局は歴史の歯車が回ってしまった。だから、全体主義的な盛り上がりがメディアを覆ってしまうような時こそ、少数の意見の存在をどうしたら届けることができるのか、残すことができるのかを考えるべきだ」

と。

私のこの意見は、かろうじて切り捨てられないで聞いてもらえているのだが…


by mariastella | 2017-12-09 00:05 | フランス
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

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