新司教の季節12月7日、パリの大司教ヴァントトロワ枢機卿が75歳で出す引退願いが即刻受理されて、ナンテール司教のオプティ司教が新大司教に任命された。着座式は1月6日の公現祭。 オプティ司教は、ヴェルサイユ生まれで、すでにパリ大司教区の補佐司教を経て、パリ郊外ナンテールの司教だったのだから、常に「首都圏」にいた人だ。 パリ大司教区というのは、100以上の小教区と1200人もの司祭を抱えるスーパー教区だが、ただのカトリック教区ではない。歴史的にはもちろん、政治的に大きなインパクトがある。ヴァントトロワ枢機卿の健康状態はずっと良くなくてすでに補佐司教たちが代行していたので、もうずいぶん前から後任の人選が話題になっていた。だから、「定年」の日を待ってすぐ引退願いが受理されたのだ。 ヴァントトロワ大司教を最後に見かけたのは、2年前の19区の教会の献堂式で、その時も疲れが目立った。疲労困憊の大司教が、聖堂周りの12の十字架を聖別するのにいちいち移動式の梯子に上って聖水を振りかけなくてはならない。落ちたら大変だとひやひやしたし気の毒だと思ったが、列席のもっと若い司祭たちは祭壇の上から遠慮なくスマホ写真をパチパチやっていた。それを見て当然列席者もパチパチ。ますます気の毒になったのを思い出す。 で、新大司教のミッシェル・オプティ師。私とまったく同世代だからすごく若いわけではなく、後10年くらいの現役となるだろう。けれども、実は、例外的な「スピード出世」街道を来た人だ。 なかなかユニークな経歴で、母親だけが日曜に教会に通う国鉄職員の家庭の三人きょうだい。 パリの病院(ビシャやネッケール)で研修後、総合医として医学博士になりパリ郊外の公立病院で11年間勤務医だった。結婚を考えたこともあるという。 で、司祭になる決意をして神学校に入ったのが39歳、司祭に叙階されたのが1995年ですでに44歳だった。神学校で学ぶ間に、神学バカロレアはもちろん、パリ大学で医学倫理の博士号も獲得した。総合医としてあらゆる階層のあらゆる状況の患者を診てきた経験が召命と深くかかわっているのは想像に難くない。 医師としての活動期間と同じ11年間を、パリの中心部の複数の教会の司祭として活動し、2006年に早くもパリの補佐司教に任命されたのだ。 それからさらに11年(その最後の3年半はナンテール司教)後にパリの大司教に任命されたわけだ。 医者として11年、司祭として11年、司教として11年、と11年周期? それで行くと、パリ大司教にも実質11年は留まるかも。 モットーは「わたしが来たのは、羊が命を受けるため、しかも豊かに受けるためである。(ヨハネによる福音書10, 10)」 医学倫理の専門家らしく、代理出産などに忌憚なく厳しい見解を述べている。 いろいろな意味で注目していきたい。 日本でも東京大司教区で新大司教が待降節第三日曜の前(12/16)に着座式の予定。教会暦のサイクル初めの日曜とか、パリのように1/6だとかの方がきりがいいのに‥と思ってしまうけれど、リタイアする大司教はヴァントトロワ枢機卿より一歳年上で去年の引退願いがやっと受理されたのだから事情が違う。まだ50代の新大司教は首都圏からではなく広い活動をしてきた人だ。 東京大司教と同年齢でやはり去年「定年」を迎えた沖縄の那覇教区、押川司教の引退願いも受理されて、与那原教会の主任司祭カプチン会のウェイン神父が新司教になるという。何十年ぶりか知らないがまさかの「アメリカ人司教」で驚いた。 それでなくとも米軍基地の脅威にさらされている沖縄で、カトリックもアメリカンで大丈夫なのかなあ、と。 でもすぐに、沖縄のカトリックの方から 「日本語堪能で沖縄の風土、人々のことよくご存じで、柔和でユーモアもあり、信徒からの信頼度一番の神父様です。教区に光がさしてくるようで とても嬉しい」というメールをいただいたのでほっと安心した。 沖縄とカトリックの問題はなかなか難しい。 沖縄に米軍基地の大半を一方的に押し付けることで「本土の平和ボケ」を許してきた現状は誰でも認めることだけれど、それに異議を唱える時に、 1「沖縄だけでなく本土も平等に負担を」と言うのか 2「米軍基地そのものを排除」と言うのか、 3「自衛隊基地も含めて軍備そのものを徹底排除」と言うのか ではまったく立場が異なる。 カトリック教会の中の「正義と平和委員会」というのは、その理念からいって、「平和憲法」原理主義であっても決しておかしくはないのだけれど、ブルジョワ保守派のカトリックからは、「絶対反米のサヨクにのっとられている」と批判される。 押川司教は、2010年に「カトリック正義と平和委員会に提案と要望」として、
と述べたように、どちらかというと1のイメージだ。 一番「現実的」なアプローチをしているのだろうと思っていた。 でも、世界に君臨する軍産共同体の権力機構からどんなに攻撃されても平和の「理想」を掲げてやむことのない現ローマ法王のフランシスコ教皇に任命されたのだからウェイン新司教(着座は来年2月)は別のアプローチをするのかもしれない。 沖縄の司教がアメリカ人というのは、沖縄の米軍兵士の通うカトリック教会やプロテスタント教会との連携も考えられる。 軍隊の規律、武器と力の支配とはまったく別の「権威」が影響を及ぼすかもしれない。 カトリック自体が日本ではマイナーだから想像しにくいが、アメリカではヒスパニック人口が増えているし、兵士たちには従軍司祭や教会は大きな存在だろうから、何かが深いところで変化する可能性があるかもしれない。 カトリック教会は、人間が構成するすべての組織と同じく、理想と現実の間で揺れ動いてきた。 これからどうなるのだろう。 おまけ: 下にパリ新大司教のインタビューを貼ります。フランス語を分かる人はどうぞ。 なかなか好感度大です。 信頼されるお医者さんだったろうなと思わせられます。 司教は司祭の世話をするのが仕事ですが、司祭が司祭職の中で幸せを感じるようにと毎日祈っているそうです。
by mariastella
| 2017-12-11 00:05
| 宗教
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