L'art de croire             竹下節子ブログ

ベアトリス・マッサンの『MASS B』

ベアトリス・マッサンと言えば、クリスティーヌ・ベイルやセシリア・グラシア=ムーラと共に、1980代にフランシーヌ・ランスローが始めた記念すべきバロック・ダンス・カンパニーのRis & Danceriesに加わったフランス・バロック・バレーの先駆者の一人だ。

私も20年以上くらい前に、バロック・バレーの講演会で彼女の話を聞いたことがある。エネルギッシュな感じだった。

私は亡くなる前のフランシーヌと一度だけ会ったことがある。

7区のコンセルヴァトワールではセシリアのバロック・バレーのクラスに初級から上級まで7年くらい通い、フゥィエの振り付け譜の読み方の講座、バロック舞曲の区別の仕方の講座、スペイン・バロックの研修などを受けた。並行して14区でクリスティーヌのルネサンスダンス、イタリア・バロック、バロック・ジェスチュエル、朗誦法の研修も受け、彼女のバロック・バレー・クラスで踊るようになってからももう10年以上経つ。

セシリアはアカデミックなアプローチが魅力的で、クリスティーヌは何よりも人柄に惹きつけられる。セシリアのクラスからクリスティーヌのクラスに移ってきた人は少なくない。

なんだかんだ言ってもマイナーであり続けるバロック・バレーの世界、認められるのも稼ぐのも楽ではない。セシリアの方がクリスティーヌよりもセルフ・プロデュースの力があるし、「名を売る」という点では、ベアトリス・マッサンがいつの間にかビッグネームになっている。

ではベアトリスがバロック・バレーを続けているかというと、実は「ネオ・バロック」と称して、時代に合わせた新しいバロック・バレーを提唱してコンテンポラリー・ダンスを展開しているのだ。

MASS Bというのはもちろん自分の名のBEATRICEMASSINをかけた言葉遊びだろうが、バッハのロ短調(Bマイナー)ミサ(Mass)のこととしていて、それにリゲティの現代曲を配したものを切れ目なく10人のダンサーが1時間踊り続ける。

踊るというより、半分以上は全速力で走ったり跳んだりだから、すごい体力だ。

途中で舞台の上でスポーツドリンクかなんかを補給している。最後の方で二度ほどわざと音が途切れるシーンがあって、その時にはダンサーたちのハアハアという呼吸が聞えてくるのもすごい演出だ。突然リアルに引き戻されるる

バロック・バレーのステップなどは、パ・ド・ブーレ・アン・トゥルナン(回転パ・ド・ブレ)が使われる以外は、腕の形が時々とってつけたようにバロックの4番に固定されるくらいで、これではプログラムに「バロック・バレーの権威であるベアトリス・マッサン」を強調している意味が不明だ。

10人がばらばらでいて全体的に有機的な動きをしているのは、まさにポリフォニーという感じで、踊りが音符のようだ。「音の空間と体の空間の関係の魔法」という形容がされていたが、本当に動きが音符のように繰り出される。

その音符がバッハなのだから動きは複雑精妙でテンポが速い。

全員がほとんど出ずっぱりの1時間だから、踊りのディティールよりも「力技」であり、それでもあまりにもスムーズなので体の動きがデジタルみたいに見える。

不思議な時間だった。


しかし、これでは、クリスティーヌよりは若いだはずだが60代になっているだろうベアトリスには自分で踊る体力はないだろうな、と思う。

終わった後で、ベアトリスが舞台上に出てきたが、その体型に驚いた。

普通の小太りのおばさん、という感じで、構成や振付は別としてダンサーとしてはもう現役ではないというのが明らかに分かる。

71歳のクリスティーヌは現役で、体型もまったく変わっていない。

バロック・バレーだからアクロバティックな動きはなく、体力的にも可能だ。

クラシック・バレーの70代の先生だって「踊れる体」を維持している人はいる。

ダンサーにはいろいろな生き方があるし、体質もあるだろうけれど、クリスティーヌのエスプリとダンサーの体は切り離せない。

ベアトリスとは個人的に話したこともないしいっしょに踊ったこともないけれど、もしこの20年をベアトリスの近くで過ごしていたとしたら、彼女の体型と共に彼女との関係が変わっていただろうか、などと考えてしまった。

数年前に80歳近いヨネヤマママコさんのパントマイムの舞台を見た。

彼女の姿は、私が知り合って以来20年変わらない。

彼女の動きとエスプリ、マイムの振付は、その舞台となる彼女の体と切り離せない。

体を見せて動かす舞台人の難しさだ。


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by mariastella | 2017-12-15 00:05 | 踊り
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