前に『陰謀論にダマされるな』(ベスト新書)という本を書いたことがある。
そこで、終末論は陰謀論のヴァリエーションだと書いた。
陰謀論に関するスタンスはその後も変わっていないのだが、1/3の『シャルリ―・エブド』の記念号にあった「否認のメカニズム」という記事を読んで、なるほどと思ったことがある。
「地震や津波やテロの危険があるとはいっても、今日明日ではないだろう」などというものから、
「そんな恐ろしい話や極端な話はでっち上げだろう」という歴史修正主義や、
「地球温暖化などはフェイクだ、実際寒波は毎年ひどくなっているじゃないか」、とか、
「ひどい話だけれど実はどこにでもあるもので騒ぐほどのことではない」、
という類のものまで、私たちが、事実や現象や統計を正面から見ることを避けて、ネガティヴなものを矮小化したり否認したりするという心理学的なメカニズムは、生存に必要な構造的な心理メカニズムだというのだ。
今の時代に天動説を唱えたり宗教原理主義がダーウィンの進化論を否定したりするというような現象もそうで、これらは、人間の「知」のシステムの中に構造的、根本的に組み込まれている「無知」だという。
どんな正論や自明の事実にも疑いを持ってひたすら相対化することで思考停止、先送りするというのもある。
これを読んでいて、この「否認のメカニズム」とは、まさに、陰謀論や終末論を信じたくなる心理のメカニズムと裏表をなしているのだと思った。
いくら表面的に安全に見えても、実は誰かの陰謀が進んでいて、あなたは、この世界は、欺かれている、破壊される、乗っ取られる、というネガティヴな言説に人は惹かれる。
安心のために無意識に相対化するのとは正反対に、ネガティヴな危機をわざわざ掘り起こして絶対化するのだ。
否認が人間の「知」のシステムに組み込まれた構造的無知なのだとしたら、陰謀論的心性は、その構造的無知と表裏一体をなしているのだろう。
さらなるバランス感覚を必要とする新しい視点を与えられた。