フランス・ギャルとシャルル・アズナブールフランス・ギャルが亡くなった1/7の夜のニュースの特別ゲストは、全国ツアーコンサートを控えた93歳のシャルル・アズナブールだった。二人はなんと一度だけデュエットで歌っている。フランス・ギャルの父のロベール・ギャルが作詞したマンマというのに曲をつけてくれる人が誰もいなかったところにアズナブールが引き受けて曲をつけてくれたのだ。 ユーロヴィジョンでグランプリ曲になり彼女を日本でも有名にした『夢見るシャンソン人形』は、ゲーンズブールが作曲していたのだということに今さら気づいた。そういえばゲーンズブールっぽい。フランス人には珍しく童顔で声も甘く、でも、エネルギッシュでリズム感がとびぬけてよかった。ジョニーは「神」と形容されていたが、彼女のキャッチ・フレーズは「フランス人の妹」だ。 フランス・ギャルは、おしどり夫婦だったミッシェル・ベルジェ(『夢見るシャンソン人形』を憎悪していたらしい : 付記あり )が1992年に44歳で急死し、ストレスからか自分も乳がんを患い、その後97年に娘に先立たれて、がんも再発、活動を減らしていた。でも2015年に夫の曲をアレンジしたミュージカルを発表して話題になったのを覚えている。生き生きしていた。セネガルやマリの子供たちの教育の支援に熱心で、アフリカに別荘も持っていたという。享年70歳で、がんの再発で年末から入院していたそうだ。 それに引き換え、アズナブールはぴしっと背筋を伸ばし、おしゃれで若々しく、今でも毎日一曲は曲を作るという。次の日にボツにすることがほとんどだが、今までに1400曲を生んだ。映画にも90本出演している。敬愛する歌手は、レオ・フェレ、シャルル・トレネ、モーリス・シュヴァリエの三人。 就寝前の二時間を読書と勉強(今は中国語の勉強)に当てているという。アルメニア移民の子であり多文化に通じていることの豊かさを強調する。 ピアフのもとからデビューした頃から、「背が低くて醜男で悪声で、将来はなかろう」と揶揄され続けてきたそうだ。しかも歌詞がみんな暗くて陰気だとも言われ続けてきた。 でも、93歳で現役。日本や中国でのコンサートも予定されている。 高齢での活躍の秘訣は、と聞かれて、「とにかく働くこと、学ぶこと」と答えていた。 子供、孫、ひ孫らに囲まれた大家長として君臨する昔一度TVで見たことがある。 家族みんなに尊敬されていた。 健康もやる気も含めて一種の天才なんだなあ、と思う。 付記) フランス・ギャルの夫がなぜこの曲を憎悪していたかというと、歌詞の持つ二重の意味のせいだそうだ。 原曲は、「シャンソン人形」というのではなく「蝋と糠でできた人形」、つまり、頭が蝋で、体の部分がおが屑などで詰め物をした布製という18世紀テイストの、でもこの文脈では安物の人形という感じだ。 フランスの女性歌手が、ロリータ扱いをされたのは、72年生まれのヴァネッサ・パラディのように実際14歳で舌足らずの声でデビューしてヒットした人の例もあるが、バネッサは「人形」ではなく、ジーンズで舞台に立っていたし、どちらかというとアンドロギュノス、中性的なイメージだった。 一方、フランス・ギャルがこれを歌ってヒットした時は1965年で、フランスの「建前」を壊した1968年五月革命の前である。 自分で抗議の声を上げられない時代、それを意識化できない時代に、イタリア語や日本語でまで歌わされた。歌唱力も表現力もある歌手なのに、「ブロンドの人形」としてまさにアイドル(偶像)として玩味されたのだ。 日本人にとっては、シャンソンというとエディット・ピアフなどの「大人の歌」を連想している時代だったから、「手の届くかわいい子」のシャンソン歌手がフランスから来て日本語で歌ってくれるなんて珍しくて楽しかっただろう。 日本語の歌詞もロリータ的であるがフランス語ほどの含意は見られない。 で、フランス・ギャルは、そのような立場から脱し、ミッシェル・ベルジェと出会い、自分の意思を表現する大人の女、歌手、プロデューサー、人道活動家になった。 それにくらべて日本はどうだろう。言いたくはないが、未成年の少女たちにコスプレをさせて、脚をださせ、聴きたい歌詞を歌わせて躍らせ続けている。一人一人の主張や個性は問われず、品評会のようなことをしていて、しかも、それに憧れたり、それを勧める親たちがいる。 1965年のフランス・ギャルは、今のフランスの歌謡界には存在の余地がない。 どうして日本のサブカル・シーンからロリコン風味が消えるどころか濃縮になっていくんだろう。 私は『夢見るシャンソン人形』が好きだった。 それは、当時弾いていたベートーヴェンのピアノ・ソナタの第一番の第四楽章のプレスティシモのテーマの一つと重なったからだ。シャンソンの出だしの部分がはっきり聞こえる。 で、今回、あらためて、この曲についてネットで調べてみたら、その相似についてちゃんと書いてあったので驚いた。ゲーンズブールはよくクラシックの曲からインスピレーションを得ていたらしい。 なつかしくなって、すぐに久しぶりにベートーヴェンのソナタアルバムを出してきてピアノに向かった。確かに何度も出てくるし、ラストにも繰り返される。 (今はネットでも聴けるとおもうので興味のある方は確認してください。)
by mariastella
| 2018-01-09 00:05
| 音楽
|
以前の記事
2024年 03月
2024年 02月 2024年 01月 2023年 12月 2023年 11月 2023年 10月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 2023年 05月 2023年 04月 2023年 03月 2023年 02月 2023年 01月 2022年 12月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 09月 2022年 08月 2022年 07月 2022年 06月 2022年 05月 2022年 04月 2022年 03月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 カテゴリ
全体
雑感 宗教 フランス語 音楽 演劇 アート 踊り 猫 フランス 本 映画 哲学 陰謀論と終末論 お知らせ フェミニズム つぶやき フリーメイスン 歴史 ジャンヌ・ダルク スピリチュアル マックス・ジャコブ 死生観 沖縄 時事 ムッシュー・ムーシュ 人生 思い出 教育 グルメ 自然 カナダ 日本 福音書歴史学 未分類 検索
タグ
フランス(1117)
時事(633) 宗教(491) カトリック(459) 歴史(267) 本(221) アート(187) 政治(150) 映画(144) 音楽(98) フランス映画(91) 哲学(83) コロナ(76) フランス語(68) 死生観(54) エコロジー(45) 猫(43) フェミニズム(42) カナダ(40) 日本(37) 最新の記事
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ファン申請 |
||