竹信三恵子さんの「日本の母親=押し入れ説」講談社の広報誌『本』の12月号で、愛読していた竹信三恵子さんの『「母親神話」の国、日本』が最終回だった。 この雑誌には同時に下重暁子さんの『その結婚、続けますか?』という連載もあって、どちらもフェミニズムの流れとして読んでいたのだけれど、いつも、そのアプローチの違いの大きさにとまどっていた。 竹信さんはジャーナリストとあり、その抑制的で客観的な筆致から、30代か40代のアカデミックな感じの人だと思っていた。 下重さんはもう80代だそうだが、結婚生活についてのいろいろな例を挙げているにもかかわらず、自分語りとの区別がつかず、ただの回想記なのか何かよく分からない。「反芻する恋がある限り、私は年をとらない。少女にもどれる。」とか、幸せな人だ。 竹信さんの記事の方は説得力があり具体的な提言もある。正直言って母親たちの、「内なる檻」「自虐のルール」などの話も、新世代「草の根封建オヤジ」の話も、あまりにも私にとっては異星の出来事みたいで実感がないのだけれど、とにかく竹信さんの論理の筋道がきっぱりしていて小気味よい。 で、はじめてネットで検索してみたら、私より少し若いが同世代の人だと知って意外だった。 しかも、記事ではまったく私生活を感じさせないのに、夫君を50代で海難事故で亡くして、『ミボージン日記』という私生活全開のような本を出されていることも知った。夫君が1950年生まれの灘中灘高から東大というのも、早生まれでなかったら東大入試中止の年だったはずだから、70年入学だとしたら、その年の一浪してきた灘高出身の友人たちの思い出があるので親近感がわく。 ネットで竹信三恵子さんのインタビューや講演記事を拝見して、すてきな人だなあ、と思った。 それにしても、フェミニズムの言説は難しい。 特に今の時代では、どこのどんな人が発言しているのかすぐに分かってしまう。 その人の経歴や年齢や外見や肩書についての先入観が、言説を読むときの邪魔になることが多い。 「先入観とのイメージが違う」ことがプラスになる場合もマイナスになる場合もある。 たとえば貧困者の自立支援をしているサポートセンターの「もやい」の中心メンバーである湯浅誠さんとか稲葉剛さんだとかがどちらも東大出身と聞くと、いくらでも他の出世街道に進めたのに偉いなあ、などと思うけれど、 フェミニストのエリザベト・バダンテールがフランス屈指の金持ちでエリートの夫、娘や孫に囲まれてパリの一等地に住んでいることを知った時に「こんな人に普通の女性の悩みが分かるのだろうか」と思ったりする。 アンチエイジングなどやめてありのままがいい、などと主張する人が生まれつき肌がきれいで色白の美人である時と、肌や髪がぱさぱさで年よりも老けて見える「オバサン」であるのとでは、たとえ同じことを言われても受け取られ方が違う。 フランスで同性愛者たちのトーク番組を見ていた時、格好いいカップルが出てくると嬉しいが、ぱっとしない人が話すと、「異性に相手にしてもらえない人が同性愛にはしる」などと思われそうでいやだ、と思った。 聖職者や修道者でもそうで、いい家庭の出で姿もよく高学歴の人が独身の誓いを立てたら何か崇高なものに見えるが、その正反対の人が立派な志を語ったら、この人、他に道がなかったんだろう、などと思ってしまう。 このような反応は、プラスにしてもマイナスにしても等しくすごくプリミティヴで差別的で、どうしようもなくくだらないと分かっているのに、多分、多くの人に脊髄反射的に刷り込まれている偏見だ。 そういう先入観のみじんもない人を私は知っている。 私にはある。 偏見がなく本質的なものをまっすぐ観ることのできる人は存在するが、そんな人には、偏見のほんとうの卑しさなど想像もつかないだろう、 私は少なくとも、偏見の根づき方や克服の仕方やその深刻さをいろいろと考えざるを得ないという点だけでは、よかったかもしれない。
by mariastella
| 2018-02-01 00:05
| フェミニズム
|
以前の記事
2024年 03月
2024年 02月 2024年 01月 2023年 12月 2023年 11月 2023年 10月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 2023年 05月 2023年 04月 2023年 03月 2023年 02月 2023年 01月 2022年 12月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 09月 2022年 08月 2022年 07月 2022年 06月 2022年 05月 2022年 04月 2022年 03月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 カテゴリ
全体
雑感 宗教 フランス語 音楽 演劇 アート 踊り 猫 フランス 本 映画 哲学 陰謀論と終末論 お知らせ フェミニズム つぶやき フリーメイスン 歴史 ジャンヌ・ダルク スピリチュアル マックス・ジャコブ 死生観 沖縄 時事 ムッシュー・ムーシュ 人生 思い出 教育 グルメ 自然 カナダ 日本 福音書歴史学 未分類 検索
タグ
フランス(1117)
時事(633) 宗教(491) カトリック(459) 歴史(267) 本(221) アート(187) 政治(150) 映画(144) 音楽(98) フランス映画(91) 哲学(83) コロナ(76) フランス語(68) 死生観(54) エコロジー(45) 猫(43) フェミニズム(42) カナダ(40) 日本(37) 最新の記事
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ファン申請 |
||