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L'art de croire             竹下節子ブログ

金日成主席『回顧録 世紀とともに』

今、書いている本は、「神」、「金」、「革命」という三つのイコンが、互いにどのように関わり合い、偶像化されて歴史や人を動かしているかという考察だ。

「革命」としたのは、この三つの言葉を「か」で始まるものにして頭韻を踏ますために使っているが、既成権力、権威を暴力、武力で倒して新しい権力、権威を打ち立てる「力」全般のことを指す。

「神」や「金」や「力」の礼拝、信仰、利用の歴史は複合的なので、当然ながら総論というのは難しい。

私の切り口はこれまで通り、日本とフランス、ヨーロッパを中心に、革命がらみでロシア、ラテン・アメリカなのだけれど、中華民国の孔教についてコラムで触れようとしているうちに、深みにはまってしまった。

韓国のキリスト教についてはブログでも書いたことがあるので、少し詳しくその経緯を書こうとしているうちに、金日成とキリスト教(長老派)の関係をチェックしようとして、ネットで回顧録の訳が読めることを知った。
彼の歩みはそれだけで非常に興味深いのだけれど、やはり、今の北朝鮮危機のこととシンクロする。

北朝鮮ではこの回顧録はきっとバイブルのように読み継がれているのだろう、金正恩も読んでいるのだろうなあ、などと想像しながら読むと、日本への恨みの深さがずっと維持、更新されるのも当然だなあと思う。

私は年をとるにつけますます、どうして、人が人を傷つけたり殺したりできるのだろう、と素朴に考えてしまうのだけれど、子供の頃は戦記漫画も読んでいたし、武器を持って戦うような遊びを普通にしていた。

「力を行使するのはアドレナリンが出て、不快ではない」ような刷り込みって、多分進化論的に定着した部分があるのだろう。

だから、この回顧録でどんなに日本軍のがひどさが書かれていても、それ自体は、時と場合によってはどんな国のどんな人でも「敵を人間とみなさない」ということがあるので、日本人として罪悪感を感じるというような気になるよりも、「敵を人間とみなさない」という刷り込みを一人一人がどう克服するかの方に課題を感じる。

一応の平和と豊かさを享受して力を行使しなくても生きていける立場にある者こそ、「弱い立場にある者を力で支配する」ことの意味とそれをどう否定するかについて考える使命がある。

金日成が『武装には武装で』という章で書いていること。 

>>>
(…)9.18事変によって、われわれには抗日戦争を遅滞なく開始すべき緊迫した課題が提起された。第2次世界大戦を予告する不正義の砲声に、正義の砲声でこたえる絶好の機会が到来したのである。 (…)日帝の満州侵略が伝えられると、革命家たちは地下から出てきて、それぞれ闘争態勢をととのえた。大陸をゆるがす砲声が、満州地方の人たちをわれにかえらせたといえよう。砲声は人びとを萎縮させたのでなく、むしろ覚醒させ発奮させた。敵の暴圧で焦土と化した満州地帯に再び闘争の気運が胎動しはじめたのである。
(…)われわれは、大衆を闘争のなかで鍛える好機が到来したと判断した。正直にいって、当時、満州地方の人たちは暴動の失敗後、挫折感にうちひしがれていた。革命を新しい段階に引き上げるには、彼らに自信をいだかせる必要があった。だが、それは檄を飛ばし、議論をたたかわせるだけで解決できるものではない。失敗をくりかえし、落胆している大衆に勇気と自信をいだかせるためには、彼らを新たなたたかいに決起させ、それを必ず勝利に導かなければならなかった。たたかいに勝利してのみ、大衆を悪夢のような深淵から救い出せるのであった。
(…)マルクス・レーニン主義の理論でも武装闘争の意義を強調してはいるが、どのような形式で武装闘争を展開すべきかという公式の規定はなかった。どの時代、どの国にも適合する処方などありえないからである。わたしは武装闘争の形式を模索するうえでも、ドグマにとらわれないように努めた。
(…)国家がないので正規軍による抗戦は望むべくもなく、また全人民をただちに武装蜂起させることも不可能であった。だから、わたしはおのずと遊撃戦を志向せざるをえなかった。
(…)レーニンによれば、遊撃戦は、大衆運動がすでに暴動に転化したとき、または国内戦争で大戦闘と大戦闘のあいだに多少の中間期が生じたとき、不可避的に進められる補助的な闘争形式であると規定されていた。レーニンが遊撃戦を基本的な戦闘形式とせず、一時的、補助的な闘争形態と見たことが、わたしには歯がゆかった。なぜなら、そのときわたしが関心をいだいて探究を重ねたのは正規戦でなく、遊撃戦だったからである。
<<<

共産主義革命は、もともと普遍的な「階級闘争」だったはずなのだけれど、それがヨーロッパ的文脈から離れた時は「民族解放」になった。
「近代革命」にはフランス革命風の自由・平等を理念とするものの流れが最初にあったからだ。
実際、金日成も言っているが、

民族解放の民族独立の革命と、
世界中の労働者を資本の搾取から解放するという普遍主義との

どちらを優先するのか、という問題意識は常にあった。

でも、結局、

「武装には武装で、反革命的暴力には革命的暴力で!」

というスローガンに行きつく。

今の中国は、マルクス・レーニン主義など教えていないそうで、共産主義は政治的独裁を担保しているだけのようだけれど、今の北朝鮮がアメリカに対して核武装をするというのは、金日成の理論といまだ地続きのようだ。

フランスにいると、アングロサクソン系の国とフランスのメンタリティのあまりもの違いにいつも驚くけれど、日本と韓国中国のメンタリティの違いもすごいなあとあらためて思う。
アメリカに原爆を落とされ、占領され、基地を提供しても、この密着ぶりだというのもそうだけれど、やはり、神、金、力の三位一体のバランスのとり方が違うのだ。

今少し書いているのだけれど、「メシア信仰」への感受性がだいぶ違う。日本はやはり海の向こうや山の彼方に住む先祖神に守られているのが基本で、弥勒菩薩の浄土思想というのも現世的ではないし、現世に現れてくれるメシアというのは「神風」みたいに自然神の自然現象みたいな形だ。

ここに書いていると長くなるのでこれ以上書かないけれど、朝鮮半島のシャーマニズムと日本のシャーマニズムとの違いにもかかわってくると思っている。

(これを書いたのは、この部分を執筆中の時で、我ながら、例えば、パリのバロック・バレエのクラスで踊りながら金日成のことを考えている日本人の私って…とシュールに思えるくらい朝鮮半島の歴史で頭がいっぱいだった。私の周りにいるフランス人は私の語る極東分析に飽きてしまったかもしれない。それにしても大学の紀要などの論文がネットでいくらでも読める時代はすごい。時々、しかるべき論文をリンクするだけでいいんじゃないかと思ってしまう時もあるけれど、誰でもがコアな論文をわくわくして読むわけではないだろう。思いがけない素材を頭の中に入れるだけで別の世界が別の視点で見えてくることの快感は特別だ。)




by mariastella | 2018-02-02 00:05 | 雑感
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