金日成の回想で、武装、武装、闘争、闘争という風に突き進んでいく時代の流れに辟易としていたので、口直しに読み返した『パブロ・カザルス 喜びと悲しみ』。
カザルスの末の弟エンリケは、末っ子で母親から特別に可愛がられていた。
それなのに、エンリケにスペイン陸軍から召集令状が来た時、母はこう言った。
「エンリケ、お前は誰も殺すことはありません。誰もお前を殺してはならないのです。人は、殺したり、殺されたりするために生まれたのではありません‥。行きなさい。この国から離れなさい。」
で、エンリケはスペインを逃げ出してアルゼンチンに渡った。徴兵令を破ったものへの恩赦が行われて帰国したのは11年後だったという。
カザルスは
世界中の母親たちが息子に向かって、「お前は戦争で人を殺したり殺されたりするために生まれたのではないのです。戦争はやめなさい」というなら戦争はなくなる、
と夢想する。
世の中には、愛する者を守るために戦う、という人がいるし、すべての戦争は自衛の戦争という名目で始まるのだから、ことは簡単ではない。
フランスにまだ兵役があった20世紀、良心的兵役拒否をしたり、ベルギーに逃げたりした知り合いがいる。そういえば、昔、日本で、私の従兄がベトナム戦争から脱出したアメリカ兵をかくまった、という事件もあったっけ。
カザルスの言うことは、「お花畑」なことではない。
カザルスやアルベニスのことを考えると、カタルーニャの人々の独立への願いも身につまされる。
バッハを弾くと「人生の脅威を思い知らされて胸がいっぱいになる」
とカザルスは言う。
バッハが弾き継がれていけないような世界にしては、いけない。