L'art de croire             竹下節子ブログ

Theopsychologie

 ドイツの哲学者 Peter Sloterdijik が Theopsychologie というのを提唱している。従来の宗教異常心理学とちょっと違って、主に一神教原理主義に現れる死への傾斜、タナトスから人々を解放しようというものだ。

 イスラムのジハードとか、キリスト教が聖餐で犠牲の救世主の血をみなで飲み合うというようなのは本来の戦いのエネルギーよりも死を鼓舞し、ストレスが最大になると彼は言う。

 アメリカの終末論的カルトグループには、堂々と自殺奨励を謳ったもの(安楽死教会、1991よりChrissy Korda)がある。

 「他者を破壊するより、自分を壊せ、動物を破壊するより、自分を壊せ、太陽と森を破壊するより自分で死ね、今夜、今すぐ」

 と勧めている一種のディープ・エコロジーだが、宗教法人として認められていて税金優遇処置を受けている。
 ヨーロッパではいくらなんでもこんなことはない。

 どちらにしても、宗教原理主義と死への傾斜が一神教に特有というのは、ちょっと違うだろう。

 破壊的な宗教原理主義との戦い方には、啓蒙主義以来、アングロサクソン型とフランス型と2種ある。

 ジョン・ロックが、どのような宗派も自分たちを正統だと思っているのだから、共存には寛容の道しかない、狂信主義とは、いつも、権力と権威に抵抗する人間の戦いの徴であるのだから、と言った。

 つまり、権力側が寛容を示して共存を認めれば、狂信はなくなると思ったのだ。確かに、21世紀の宗教原理主義のテロリズムなどは、ネオリベの競争原理に取り残された南北格差や貧困などによって拍車がかかっているかもしれない。でも、ジョン・ロック型の、どんなおかしな言い分の宗教でもみんな寛容の精神で公認してしまうというやり方で、自他の破壊主義が緩和するとは言えない。

 フランス型はヴォルテール型で、狂信は伝染病のようなものだと言う。野放しにすると広がるばかりなので、予防や撲滅も必要だと言う。

 フランス型は一つ間違うと、アンチ・リベラルの全体主義にも使われそうだ。実際、初期共産主義社会では、宗教そのものが、天然痘みたいに撲滅すべき対象だと考えられた。

 ここに「自由」尊重の問題も関わってくる。自然な内なるモラルを行使することが真の自由であり、神はそのような実践理性に要請されるものだとカントは言った。カントの考えるような内なるモラルや自然とは、タナトスや破壊衝動から免れているのだろう。

 Sloterdijik によるテオ・サイコロジー=神心理学、の提唱も、考えると、皮肉だ。もともと心理学の成立そのものが、無神論の一表現だったからだ。神や神々にリアリティのある社会や文化圏では、心理学など存在せず、発祥もなかった。というか、全ての「人文科学」が、神を心的現象に疎外したのだ。
 少なくとも西洋近代史の中では、科学と宗教が対立するのではなく、人文科学と神学が対立するのだ。無神論の誘惑に最も悩んだのは、自然科学者ではない。
 それを思うと、明治の日本の和魂洋才なんて簡単だった。

 エコロジーとの関連でいくと、Patrice de Plunkett の提唱する「新しい解放の神学」の、消費主義と決別する姿勢は共感が持てる。でもこの人のブログを見てると、明日からフランスにやってくるローマ教皇萌えぶりにちょっと引いてしまう。彼が福音派やオプス・デイと仲よさそうなところも。

 いくらよいテキストを発表しても、著者は当然、コンテキストも読まれてしまう。他のところで言ったり書いたりしたことを完全に囲ってしまうことはできない。肝に銘じなくては。

 
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by mariastella | 2008-09-11 19:42 | 宗教
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