L'art de croire             竹下節子ブログ

B16 の野外ミサ

 朝11時にアンヴァリッドのミサがどうなってるかと思ってTVをつけたら、1チャンネルも2チャンネルも中継をやっていた。25万人とかいう人出だそうだ。

 TVの解説を聞いていると、数年前のJP2の臨終と葬儀の時にTVがヴァチカン放送みたいになってたのを思い出した。

 JP2ほどのカリスマ性も演技性もないB16だが、人は目にみえるシンボルが好きなんだなあ。
 アンヴァリッドに集まった若者の1人がインタビューされて、「人生と愛とSEXについての教皇の大事なメッセージを期待してる」と返事していた。

 どんな育ち方をしたらこんなことを真面目に言えるんだろう。

 戦争中などの国でレイプされて妊娠したが中絶したくないと思う女性が、教皇の言葉にすがれるのはいいなと思う。中絶はつらくとも、まあ日にち薬というのがある。でも子供を生めば一生だ。中絶できるんならすればよかったのに、と周り中から思われながら子供を育てるのはつら過ぎる。少なくとも、「教皇様」は一生この誕生を祝福してくれる。

 それに中絶する人はそれどころじゃなくて、ヴァチカンの意向なんて最初から気にしてない。いわゆる信者でも、罰則さえなきゃどうってことない。
 第一、中絶禁止を含む「Humanae Vitae」って、51%対49%の多数決で採択されている。 実際、もっとリベラルな決定をしている司教会議〈ベルギーなど〉だってある。
 カトリックより保守的なことも多い正教においても、この種の決定〈中絶など〉は、当事者と司祭とがプライヴェートに相談して合意した決定を教会は批准する、ってなっている。

 いや、素直な若者を揶揄してるわけではない。でも、一応平和な国フランスで、裕福そうな多分ブルジョワの階級の若者が、愛や人生やSEXについてくらい、自分で悩めよ、と思う。最初からアドヴァイスやガイドラインに期待するなよ。

 ま、フランスは伝統的に反教権主義が盛んだったから、教皇が人を集めてることにアレルギー反応を示す人もたくさんいる。
 でも、教皇を生で見て感激してぽーっとしている信者さんの顔を見てると、ついこないだフランスに来ていたダライラマを拝んでた熱心なフランス人仏教徒たちと同じ顔だ。

 宗教儀礼は社会的な連帯体験として優れているという見方もある。

 今はちょうど、共産党の「ユマニテ祭」の時期でもある。

 集団で儀礼や祝祭で盛り上がるには、メガ・アイドルのコンサートというのもあるだろうし、スポーツ観戦もあるだろうし、まあそういうのは栄枯盛衰が激しいと客の方も知ってるから、個人崇拝の次期は短い。
 熱狂的な党大会っていうのは体質的に嫌いだ。独裁者に万歳というのは問題外。

 まあ、息子を大企業のパトロンの娘と結婚させたどこかの大統領の周りで熱狂したり陶酔したりするよりは、80近くで最高位に就いたものの子孫も持たず家庭も持たぬB16や、同じく生涯独身で苦労人のダライラマを見て感涙を流す方がずっとましである。

 B16は芝居気がないから、ミサも地味である。でも、聖餐のために、司祭たちがずらりと列をなして、アレクサンドル3世橋の方までびっしり埋まった信者に聖体を運んで配るのは、壮観だ。お天気良くてよかったねえ、そう、君、教皇からのアドヴァイスを待ってた君の心がけが良かったんだよ、と言いたくなる。
 このイエスの「体」を食べることをもって、キリスト教って、カニヴァリズムで野蛮で好戦的だって言うこちらのインテリがいるが、シエナの聖カタリナでもなければ、ぱりんとした聖体パンを「ああ、血の滴る主の体だなあ」と陶酔して食べる人はいないだろう。

 むしろこのシーンは、イエスが、パンや魚を奇跡的に増やして4千人とか5千人の群集に分けて食べさせた文字通りの「分かち合い」、のイメージだろうな。聖体拝領してアドレナリンが出て聖戦に出発って思う人はいないだろう。お釈迦さまにさし上げるものが何もないからって、自分の身を火に投げたウサギの話なんかの方が迫力があるくらいかもしれない。

 で、ミサはほとんどフランス語だが、「主の祈り」はラテン語だった。TVの画面を見てると、言えてない若者も多そうだった。唇の動きから、明らかに勝手にフランス語で唱えてるなあ、という人もいそうだった。ま、解説によると、B16は懐古趣味でなく、多様性を取り戻したいと思っているんだそうで、ミサは美しさや沈黙の部分を大切にして、聖なるものの喚起を目指してるんだそうだ。

 私は個人的には静かなのが好きだ。熱狂は困る。

 こういう「荘厳」な儀礼を見るのはいやじゃない。

 昭和が終わった時には日本にいなかったので、いろんな儀礼の荘厳さとかが実感できなかった。日本のTVの記憶で、荘厳っぽいのは、大晦日の「ゆく年来る年」くらいである。除夜の鐘はもちろん、あれで、毎年、はい、長崎の天主堂の大晦日のミサの風景です、みたいなのがキリスト教風景としてインプットされた。儀礼とは、「超越の探求」の装置なんだろうなあ。

 病者や障害者がヴォランティアに先導されて前の優先席に陣取ったり、教皇から直接聖体拝受する人が、セレブじゃなくて「貧しい人(といっても厳選されてるんだろうけど)」優先っていうのもお約束とはいえなかなかいい。

 アベ・ピエールの後でエマウス共同体のトップになっていたマルタン・ヒルシュが、サルコジの左派取り込み路線で閣僚になっているが、この夏、ついに、悲願のRSA法案を大統領に承認させた。20年前社会党政権が実現したRMIという最低保障支給の進化形だ。日本でも、生活保護を受けてる人が少しでも働き出すと打ち切られてしまうという問題があるように、RMIも、パートでも働くともらえなくなって、生活が成り立たないので働かない方がまし、というケースが多かったのだ。
 今回の連帯アクティヴ保障は、収入に応じて、足らない分を補給してくれる。その財源は庶民からでなく資本からとりたてる。簡単そうで難しい改革である。

 そう、「社会的弱者に仕えよ」というのがイエスのメイン・メッセージであって、その意味で、キリスト教は本来とても「ソシアル」なのだ。

 Patrice de Plunkett が「convertiは必然的にソシアルに向かう」というようなことを書いていた。converti とは回心者のことで、この文脈では「真に神に目覚めた者は」、というような意味だろう。  
 してみると、B16風に言って神の探求は文化とか美に向かい、神の目覚めは弱者救済に向かうのか? 多分同根なんだろう。そうでない神なんて存在論より存在理由論の対象になりそうだ。
 
 
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by mariastella | 2008-09-14 00:12 | 宗教
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