L'art de croire             竹下節子ブログ

アメリカ大統領選の宗教ボキャブラリー

 夕べ、TVで、アメリカ大統領選と宗教についてのドキュメンタリー番組を見た。ベルギー制作でヨーロッパ目線なのだが、1人のイスラエル人がアメリカを旅して取材するロード・ムーヴィー風になっている。

 後で、ドイツ人、フランス人、アメリカ人などをまじえた討論があった。これを見てる平均的フランス人の視線がすごく分かる。アメリカのキリスト教はヨーロッパの16世紀以前のキリスト教じゃないか、とかいっている。驚きは日本人でも同じだろう。

 それは、

 なんだ、アメリカって全然「政教分離」してないじゃないか、


 などというレベルのものではない。

 
 こいつら、ほんとに、本気で、こんなこと信じてるのか?

 という感じである。

 「オバマは神が遣わせてくれた人」

 「神に選ばれた」

 なんて熱狂している。

 実際、候補者の演説もすごく宗教的含意に満ちている。

 フランスでは絶対あり得ない。
 その点では日本と同じだ。

 これまで、何となく考えてたのは、

 アメリカは神の国として建国したので政教分離がもともと無理、

 1960年代や70年代のリベラルの反動で宗教右派が台頭した、

 などというファクターだった。

 でも、昨日の番組を見て、はっきり分かったのは、

 ケネディからニクソンまでは、大統領選のディスクールのパラダイムが今とははっきり別だった。
 アイルランド系でカトリックのケネディは、当選するために、「政教分離」のパラダイムを創始せざるを得なかった。それは1960年から1976年まで機能していた。

 それがウォーターゲイト・スキャンダルで壊された。

 そこに登場したのが、政治の言説にモラルを導入したカーター(民主党!)である。
 「モラル」を担保したのが「信仰」だったのだ。

 後のブッシュ・ジュニアと同じ「ボーン・アゲイン」もそうだが、要するに、「神を信じているから自分は絶対に嘘をつかない」、と言ったわけである。(中絶だの同性愛者の結婚だのは、1976年にはテーマにはなっていない。それは当時マイノリティの意見で政治的でなかった。)

 それから、パラダイムが劇的に変わり、それ以来の候補者はみな多かれ少なかれ聖書の「預言者」として自己演出するようになった。宗教右派の原理主義的テーマは、後になってそれに利用されただけだったのだ。(今はそれが踏み絵のような肥大したファクターになった。)

 オバマの場合はキング牧師のイメージも使っているからすごく預言者的だ。
 黒人のブラック・チャーチは、もともと、教会が彼らの学校で病院で公民館の役割を果たしていたので、政教が切り離せない。オバマは意識してそれを利用している。

 で、実際、彼がどれだけ宗教的言辞を弄しても、中味は、かなりプラグマチックな人だろう。
 でも、大統領選の演説では預言者としてふるまう、これがもうお約束のレトリックになっているわけだ。とはいえ、よくもこれだけ聖書的せりふを振り回せるなあ。
 モスクでの取材もあったが、大統領選の「神」や「預言者」はみなユダヤ=キリスト教の神だから自分たちは居場所がない、と言っていた。

 熱狂してる人たちは、果たして、どの程度「演じて」いるんだろう。
 内心の虚実の具合を知りたい。

 経済恐慌のせいで、神懸り言辞よりももう少しリアリティのある言葉も最近は出てきたが、そもそも権力志向の政治家なんてほんとに神なんて信じているんだろうか。

 
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by mariastella | 2008-10-16 02:59 | 宗教
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