L'art de croire             竹下節子ブログ

2016年 11月 27日 ( 1 )

ロン・ハワード『インフェルノ』

ダン・ブラウン作のロバート・ラングドンの映画化シリーズ第3作『インフェルノ』。

『ルイ14世の死』があまりに息が詰まりそうだったので、気分を変えるためにハリウッド映画に行ってみた。
フィレンツェが舞台というのも大画面で見るのが楽しそうだったし。

なんかもう、007みたいに追跡シーンばかりで展開が速くて飽きないのだけれど、007ならヒーローが絶対強そうでカタルシスもあるけれど、このラングドン教授は最初から最初まで傷だらけで記憶はないの体調は悪いの幻覚は見るの、で、映画を見ているこちらが疲れる。

一方、女優は悪役もふくめてすてきで元気いっぱいだ。イギリス人のフェリシティ・ジョーンズ はかわいいし、デンマーク人のシセ・バベット・ クヌッセンは相変わらずすばらしい。
前にもフランス映画でいい味を出していたが、最近も「ブルターニュの女」というフランス映画でヒロインを演じている。
ひっぱりだこだ。
知的で抑制があって、しかしとても優しく温かく女性らしさがあるというギャップがいい感じで、地味なのだけれど印象に残る人だ。

この映画ではWHOの事務局長役で、最初に出てきたときは、腹に一物ある怖い女ボスというイメージなのだけれど、実はラングドンの元恋人だった。ラングドンはハーヴァードに、彼女はスイスのWHOにと、それぞれ自分の天職の使命を発揮するところに別れていくという設定。

それはなんだか中学生の恋みたいなのだけれど、ファブリス・ルキーニが相手役でもそうであったように、この人が演じると説得力があっていい感じだ。

男の悪役は、フランスのコメディアンのオマール・シーや、目玉が飛び出しそうで怖いインド人イルファン・カーンなど個性的で、パッとしないトム・ハンクスを補っている。
マッド・サイエンチストを演じるベン・フォスターという人だけが普通っぽい。

話は歴史や美術、宗教と直接の関係はなく、007の敵風の陰謀論みたいなものなので、前2作のようなつっこみどころはない。

実は、今年映画館で観たハリウッド映画に『スター・トレックBEYOND』がある。
付き合いで観たのだけれど、そして、飽きずに見て、後からいろいろ情報を収集したのだけれど、
コメントを書くことがどうしてもできなかった。

今年観た中で、同じ種類の映画、つまり、それなりに面白かったのに、コメントの書きようがなかったものに、実はディズニーの『ズートピア』がある。

二作とも、ポリティカリー・コレクトというか、アメリカの描く人類の正しい理想みたいなものがある。

性格や条件や「強さ」などがまったく違うキャラクター間の友情、
平和が実現して戦争のない世界、
しかしそれを軟弱で平和すぎる刺激のない世界とみて、争いの種をまく「悪者」。

『スター・トレック』で、多様な人種が、同じ連邦の理念のもと、平和的に協力し合いながら宇宙探索を進める世界、それを異星間の平和条約にまで拡大しようという使命感。
『ズートピア』で草食動物と肉食動物が共存し、キリンもネズミも同じ列車で旅行できるような多様性を実現している世界。

なんというか、それらのあまりにもの「正しさ」と、理想を鼓舞してくれる「いい感じ」が、現実のアメリカやアメリカが主導している世界の状況とギャップがありすぎて、居心地が悪かった。

その点、この『インフェルノ』には、そのマッド・サイエンティストの「巨悪」みたいなものも、それを善意で信奉してしまう人々の「間違った理想」「間違った正義感」も、ある意味で、リアルな愚かさなので、イデオロギーが入り込む余地もない。なんだかぱっとしないヒーローの等身大のあがきの後を追うだけ、という気楽さがある。

大仰な人類救出劇の中で小さな安堵、小さな迷い、などの表現が一応成功している。

まあ、この『インフェルノ』を見てライフポイントを回復したので、次はシリアスなイラン映画アスガル・ファルハーディー の『セールスマン』に挑戦だ。これについては次に。
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by mariastella | 2016-11-27 00:51 | 映画



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