L'art de croire             竹下節子ブログ

2016年 12月 08日 ( 1 )

アンゲラ・メルケルとアンデン・パクトの男たち

Arteでアンゲラ・メルケルのドキュメンタリーをやっていた。

もう10年もヨーロッパのトップに君臨する彼女についてはすでにいろいろなところで特集とかドキュメンタリーを見たことがある。

父親がプロテスタントの牧師、東独出身の物理学者、牧師館には知的障碍者のための施設が併設されていて彼女も通っていたなど、多少のプライヴェートのエピソードもすでに耳にしたことがある。

でも、今回このドキュメンタリーを見て、なんだか改めて、奇跡のような人だなあ、と思った。

前に女性の政治家について書いたことがある。

フランスの女性政治家についてや、
ジャンヌ・ダルクとヒラリー・クリントンや小池都知事について

そのどちらにもメルケル首相は出てこない。

メルケルが「女性政治家」の観察のフィールドに入ってこないのはマリーヌ・ル・ペン女子と似たポジションのかもしれないと漠然と思っていた。

でも実はメルケルさんのことはかわいいなあ、と思っていた

この番組を見ると、若い頃は超かわいいし、おかっぱ頭もジャンヌ・ダルクそのもので、フランスだったら絶対そう言われていただろうなあと思う。

女性にも好かれていて、側近を信用できる女性で固めたというのも意外だった(girls campと呼ばれる)。 
番組で証言しているヴァチカンのドイツ大使も女性だった。

ちなみにフランスは14世紀から教皇庁に大使を送っているが、女性は一人もいない。

オバマ大統領はキャロライン・ケネディ(カトリック)を大使にするつもりだったが、彼女がプロ・ライフ(中絶反対)ではなかったので拒否されたという。フランスもゲイの活動家を送ろうとして拒否されたと言われている。
今の在ヴァティカンのアメリカ大使は外交官出身ではなく40年もアメリカのカリタス(カトリックの社会福祉組織)で働いていた人だ。昨年引っ越した立派な大使館にいる。

(大使の人選って、相手国が拒否できるのって知らなかった。それともヴァティカン限定? いや、ヴァティカンも公式に拒絶したわけではないけれど。カトリックでないとだめということもなく、イラン大使をはじめムスリム国の大使もいるし。)

話がそれたが、それでも、メルケルのドイツが女性大使をヴァティカンに送っているのはそれなりの意味がある気がする。

で、話はそんなことではなく、この番組で一番驚いたのは、東独から来たジャンヌ・ダルク風の、でも、控えめで野心を表に出さない感じのかわいいアンゲラが、自党内で、典型的なゲルマン男の政治家たちからなる「アンデン・パクト」(メンバーの名が分かるという意味では秘密結社ではなく「非公開互助会」とか呼ばれているが、まあ似たようなものだ。で、男限定。)を敵にしていたということだ。

彼らと彼らの戦略のすべてを出し抜いて、ヘルムート・コールの後に、SPDのシュレーダーの一期をおいて、CDU(キリスト教民主同盟)から出馬して首相になった。

今の堂々とした感じからは、マルティーヌ・オーブリーやル・ペン女史を思わせるけれど、オーブリーやル・ペンは、若い頃から意志の強さとか気の強さとか野心を感じさせる雰囲気だった。
メルケルの若い時は、学生時代ソ連の数学コンクールで優勝したりしているのに、西側の男たちの間にいると、本当に、田舎の物理研究所勤め以外の外の世界を何も知らないでポッと出てきた素朴な女の子(30代でも18歳くらいに見える)という風体なのだ。

一方、コールの後釜を狙う軍団のようなアンデン・パクトの男たちは、もう、「多様性って何?」って言いたくなるほど互いに似ているマッチョなゲルマン・エリートの風貌。
ラテンの男たちやドナルド・トランプみたいに分かりやすい男たちとは正反対の、「秘密」が似合う男たちだ。

よくこんなところで生き延びて彼らを鮮やかに出し抜いたなあと思う。

しかも、彼女の演説は、聞く人によって、左派にも、改革者にも、ナショナリストにも解釈されて共感を呼ぶ柔軟さだ。
社会主義体制、科学研究チームという、自由より規律優先の社会から来たので「変革」を肯定的にとらえるおもいきりの良さも、どこにいようと自分の立ち位置こそが「中道」なのだという自信に満ちたバランス感覚も、アンデン・パクトの男たちには想像もつかないことだったろう。

一方で、ヘルムート・コールとミッテランが思い入れたっぷりに独仏の和解やらEUの発展に尽くしたのと違って、メルケルはEUに対しても科学者らしい知的で冷静な打算を隠さない統治者の顔を持つ。

それでも、ヒラリー・クリントンが逆立ちしても演じられないような「素朴さ」や「暖かさ」みたいな空気を発することもできる。私生活は公開しないけれどジャガイモのスープを作るところはOK。

いやぁ、彼女は4期目も狙うらしいから、まだ先のことかもしれないけれど、リタイアしたらぜひ自叙伝でも読みたい。そんなの書くタイプではない気がするが・・・

アンデン・パクトの男たちによる回想も読んでみたいけれどまだ利害が一致しているからね。
番組でもアンデン・パクトのローラント・コッホなどが証言していたけれど、なかなか微妙なニュアンスも読み取れた。

それにしても彼らをここまでリスペクトさせたのはメルケルって、やっぱり、すてきかも。

(Arteのサイトでこの番組は今のところまだ試聴できます)
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by mariastella | 2016-12-08 04:03 | フェミニズム



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