L'art de croire             竹下節子ブログ

2017年 02月 02日 ( 1 )

トランプ、フェミニズム、ミスユニバース、プルエス、相撲と紅白歌合戦

私は(先進諸国の中で)「日本は遅れている」という言い方は嫌いだ。そんなことは一括してはとてもいえないし、分野にもよるし、時と場合にもよるし、感受性の差にもよる。

ひと世代前の日本人の仏文学者がフランスでの体験を書いて、ソルボンヌの教授のやることなすことに「…しておられた」などと敬語を使いまくっているのを読んでもなんだか不愉快なくらいだ。

けれども、週刊朝日(2/10号)の北原みのりさんの記事をネットで読み、澤藤統一郎さんのブログのこの記事とかを見ていると、暗然とする。

どちらもトランプ大統領がらみのテーマだ。

北原さんのはフェミニズムに引き付けてのものだけれど、もちろんすべての差別において人の「モノ化」は通底している。

この週刊朝日の記事もそうだけれど、実際、インターネットのサービスで、今まで見たこともないいろいろな週刊誌などをザッピングできるので、男性をターゲットにした若い女性のグラビアでの扱い方を目にすると胸が悪くなる。

トランプに話を戻すと、メラニア夫人がいつもなんとなく悲しそうな顔をしているのは本当だし、これについては、フランスの大統領なら少なくとも自分の連れ合いにこんな態度をとるということはあり得ないだろう。

今年のミス・ユニヴァースのコンクールでで半世紀以上ぶりにミス・フランスが勝利したということについてさえ、ただの遺伝子の比較に過ぎなく、なんのprouesseもない勝負にフランス人が誇らしい、みたいなことを言うべきではない、と批判する人がいた。
フランスの教育やフランスの環境によって学者やアスリートやアーティストが育ったり力を発揮したりして国際的に認められるなら誇ってもいいが、ミス・コンテストはその人の個人的な遺伝子の勝利であり、コンテストの中でprouesseを求められないから意味がない、という。

この「プルエス」という言葉、昔、東大のフランス科にいた時のなんの授業だったかで、すごく細かく説明されていたテキストを読んだ。
とても印象的だったので、おかげで今でも、単に辞書的な意味でなく、その背後にある価値観がよくわかる単語のひとつになっている。

今、ためしにgoogle翻訳で日本語にしたら、「業績」と出てきた。
フランス語から英語にしたらprowessと出てきた。
その英語をさらに日本語に訳したら「武勇」と出てきた。

うーん、まあ騎士道などと関係があるから、「業績」よりは「武勇」の方がまだ近いけれど、もっと、ある「決意」を、克己とか精進とかを伴って遂行した結果に得られたもの、という感じかな。
ヒロイックな含意がある。
ミス・コンテストには確かにそんなものは必要ないから、やはり「見た目」がモノとして評価されているだけだ。

大相撲で、久しぶりに「日本出身力士」が横綱になったと話題になっているのも目にした。
でもフランスにいて聞くとこ、の言葉は微妙な言葉だなあと思う。

モンゴル出身などで日本国籍を取得した横綱と区別するためらしい。
国籍とは関係なく、「日本生まれではない」というニュアンスがある。

では、日本生まれの外国籍の人は「日本出身」ではないのだろうか。
あるいは、両親が日本人で外国で生まれた人が日本で力士になったら、「日本出身」とは言わないで「日本人」というだけなのだろうか。
あるいは「日系二世」とか?

でも、文脈からいうと、「日本出身」というのはどうも、日本の「純粋な血」をひいた、という、例の「単一民族」神話を反映しているらしい。

フランスでも、差別問題で口に出される言葉に「Français de souche」のがある。soucheは木の株というか、土着のという感じで実際は「白人」という人種的な言葉を避けるためかのように使われている。

まあ、いわゆる白人でもフランスにはイタリア移民、ポルトガル移民、ポーランド移民はとても多いのだが、二、三代目ではFrançais de soucheとは呼ばれない。
Français de soucheとは、「先祖代々のフランス人」ということになる。

とはいえ、先住のケルト人だけではなく、ゲルマン人の移動と共にやってきた人、ローマ帝国の版図と共に広がったラテン系の人などがまざっているわけで、「先祖代々」と言っても見た目もいろいろだ。
フランク族のクローヴィスとかシャルルマーニュとかが今の独仏伊あたりを統合したので、そして、彼らがローマの国教だったキリスト教に改宗して共同体をオーガナイズしたので、結局は「白人のキリスト教徒」みたいな含意もある。フランスに多いイタリア、ポルトガル、ポーランド移民はみなカトリック国という共通点も見逃しがたい。

でも、柔道重量級の世界チャンピォンであるテディ・リネールなど、フランス本土ですらないカリブ出身(本人はフランス本土生まれだが)の黒人だし、サッカーで一世を風靡したジダンは北アフリカのベルベル人だし、伝説的なテニスチャンピォンのヤニック・ノアは黒人との混血だが、フランス人がそういう時に彼らを「フランス出身でない」とか「ウィンブルドン現象(よそから来たものに地元が負ける)」だなどとは言わないし、多分思ってもいない。すごく単純に、「フランス万歳」と喜んでいる。

まあ、相撲は日本の「国技」で、世界的にはローカルスポーツだから、「日本代表」対「外国代表」という国際試合がないので、よけいに出身の「差」が目立つのだろう。

日本の外から見ている限りでは、モンゴル出身の横綱も見た目には区別はつかないし、お相撲さんというのは誰でも訥々と語るイメージがあるから、インタビューなどを受けての日本語を耳にしても違和感がない。

ただ、本来閉鎖的な日本の相撲の世界にわざわざ挑戦する外国人力士の出身国と日本には、やはり「経済格差」があるようで、その「出稼ぎモチベーション」抜きには今のような状況には絶対になっていないだろうなあとは思う。
昔は日本でも、ハングリー精神で地方からやってきて横綱を目指すというような例があったのに、もう日本人にはそういう人は少なくなったともよく言われる。

個人戦のスポーツはいろいろな含意や偏見を反映しているから難しい。
チームのスポーツは、その中で多様性を発揮できるからもう少しリベラルな感じがする。
ラグビーなんか、日本でもナショナルチーム自体が国際的だ。
フランスのサッカーのナショナルチームなど、「先祖代々の白人の」フランス人なんてマイノリティだ。

愛国心とは別に選手やチームの「プルエス」を愛でるファンも多いだろう。

そういえば、日本には今も「紅白歌合戦」という、形だけにせよ、「男女対抗」の「合戦」がある。
確かに歌は筋肉のつき方や身長などと関係がないから、男女が「同じ土俵」で競い合うともいえるけれど、パロディだとしても、よくこのコンセプトが続くなあ、と思う。こんな催しって日本以外にあるんだろうか…。
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by mariastella | 2017-02-02 00:44 | 雑感



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