L'art de croire             竹下節子ブログ

2017年 02月 10日 ( 1 )

『沈黙』をめぐって その6

『沈黙』のテーマに関しての考察を当分続ける。
 
この映画の中で、日本には「キリスト教が根付かない」とい有名なくだりがある。
植え付けても根枯れする、というのだ。

日本語で文化と訳されるカルチャーという言葉はもともと植物の栽培に関した言葉だ。

で、この映画では、キリスト教、あるいは「普遍協会」の「アカルチュレーション」は不可能だと言っている。aculturation は、栽培で言うと「移植」だ。臓器移植で拒否反応が出て失敗するという言葉も連想する。
で、今のカトリック教会(第二バチカン以降)というのは、もうaculturationはやめて、インカルチュレーション inculturation (栽培で言うと埋め込み)の時代だよね、ということになっている。
つまり、帝国主義の侵略と親和性のあるようなアカルチュレーションはやめて、種だけ持って行って現地のやり方で育てよう、という感じか。

詳しく知りたい人には 2013年のコンゴで出たこの文を読むと感動的によくわかる。

人間の宗教的な「召命」と文化とにはオーガニック(有機的)なリンクがある。「普遍教会」であろうとなかろうと、その宗教的な表現はすべて「文化」に結びついたものだ、とある。
つまり、ローマ教会が「普遍」の教えだと思っていたものは、「普遍」をヨーロッパ文化の文脈で表現した教えだったという当たり前のことだ。

木を移植するのにはそれに適した気候、風土の研究が必要だ。ヨーロッパ産のものがすぐに日本に根付くとは限らない。
ローマ教会は、パレスティナから広がったキリスト者たちが広めた考え方を「体制宗教」としていく中でしっかり自分ちでインカルチュレーションしていた。種が埋め込まれて、風土に適した新種が育ったのだ。そういう形でなければ新しい宗教が習俗や伝統としては根付くことはない。

で、一六、七世紀のフランシスコ会やイエズス会は別として(中国のマテオ・リッチなどかなりインカルチャーした人もいたけれど)、遠藤周作が影響を受けた近代以降のフランスのパリ外国宣教会はアジア専門だったこともあって、よーし、今度こそ失敗しないぞ、とがんばった。
彼らが建てた日本人向けの教会には畳敷きのところが多かったのもその意気込みを表している。
長崎で「隠れキリシタン」を「発見」したのがパリ外宣の神父で、フランスのカトリックは沸きに沸いた。原種に近く戻す必要はあったけれど、「インカルチュレーション」の奇蹟だと思った。
でも、隠れキリシタンではなく、宣教師らの作ったミッションスクールなどを通してキリスト教を「欧風文化」の一環とみなしていた日本人の感覚とはかえってずれていたかもしれない。

要するにこういうことだ。

ローマ教会が、自分たちの「普遍」も文化の一形態であり、それを超えたところに真のルーツである「普遍価値」があり、それを異文化世界で広め認めてもらうことは不可能ではないのだ、とようやく理解するためには、

プロテスタントに離反され、
宗教戦争で血を流し、
近代革命に追放され、
政治の道具にされ、
自分たちの内部でしっかり根腐れを起こしているのも何度も土を入れ替えたり品種改良したり、
そうこうしているうちに人々の心が離反していった、

そういう経験のすべてを必要としたということだ。

こうなるといいかげん、宗教としては「終わりのコンテンツ」となっても不思議ではなかったのだけれど、そうならなかったのにはわけがある。

それは『沈黙』とは別の話なので別のところで。

ともかく、『沈黙』でフェレイラが「この国って絶対無理なんだ」って言っているのは、

アカルチュレーションのやり方で「真理の花」を咲かせるっていう方法論が間違っているんだよ、

と気づいたと言っているのだ。

けれども前の記事でも書いたように、一七世紀前後のヨーロッパのキリスト教世界というのは、一応同じ文化の中だったのに、地質が変わり、栽培法も変わり、「真理」も「花」も、その有用性はおろか存在すら疑われた時代だった。
イエズス会士たちはそれを十分知っている。

「拷問に負けて棄教はしたけれど心の底では信仰を捨てずにずっと神を信じて生きていきましたとさ」というようなお花畑な話とは無縁だった。

「社会の秩序維持のため、キリストへの愛のため司祭職を全うするけれど、心の底では無神論の誘惑にさらされて疑いと迷いの中で生きていきました」というケースの方が縁がある。

通辞と井上様がロドリゴのことを「よし、あいつは傲慢だから絶対転ぶぞ、」という感じで予測した人間観察は正しかった。(続く)
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by mariastella | 2017-02-10 01:13 | 宗教



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