L'art de croire             竹下節子ブログ

2017年 05月 07日 ( 2 )

ふたりオイディプス

(ただの雑感です)

朝起きて日本のネットニュースを眺めたら、フランスの大統領選がトップに上がっていた。
たいてい英語圏のニュースからの流れだろうから、アメリカで話題になっているということだろう。アメリカはトランプ・ショックから立ち直っていないし、普通はフランスより時差的に「遅れている」場所だけれど、フランス本土の午後8時までに集計されていなくてはならないのでアメリカでの「在外投票」は1日前に行われている。
夕べのフランスのニュースでも、アメリカやカナダの大使館などでひと足早く投票する在外フランス人の姿が映されていた。在米フランス人の第1回投票では、マクロンが55%ですでに過半数だったという。

グローバルな活躍を支援するマクロン出なければ困る、というのは理解できる。
そういえば在日フランス大使がル・ペンが大統領になれば辞職する、とツィートして、そのことを在米フランス大使が「よく言った」と賛同のツィートをしていたっけ。

官僚が民主主義に反対するのはおかしい、という批判ももちろんあったけれど。

今日の結果が楽しみだ。
何があっても、それにまつわる人々の反応を観察するのが好きだから。

マクロンもル・ペンもどちらも嘘つき、信用ならない、与したくない、という人がよく口にするのは

「ペストとコレラのどちらかを選ぶなんてできない」

というセリフだ。 メランションの支持者から発せられた後、一気に広まった。
ペスト(la peste )が女性名詞でコレラ( le choléra )が男性名詞なのでぴったりはまった。日本語の「目糞鼻糞」なら侮蔑的だけれど、ペストとコレラは脅威で恐れを搔き立てる。これもポピュリズムの時代に合っているという感じ。

もう一つ笑える比喩は、ポピュリズムよりも少し「教養?」を必要とするもので、

ル・ペンとマクロンは

「父親を殺した者と母親と結婚した者」

というものだ。

ギリシャ神話のオイディプスのことで、子供に殺されるという神託を受けて、生まれた息子を棄てた王が、結局、成長した息子オイディプスに、そうとは知らず殺され、
さらに、オイディプスはやはりそうとは知らず実の母と結婚してしまう。
フロイトが唱えた「オイディプス(エディプス)コンプレックス」で有名で、息子はシンボリックに父を否定することではじめて大人になる、というような文脈でも使われる。

マリーヌ・ル・ペン女子は、FNの創立者である自分の父を追い出す形で、父に次いで15年ぶりの大統領選の決選に進出した。

マクロンは24歳年上の女性と結婚した。(実の母親はブリジット夫人より3歳上。マクロンは幼くして死んだ長女の後に生まれた第二子)

で、シンボリックな「父殺し」と
シンボリックな「母との結婚」で、

2人合わせて「オイディプス」だって。

まあこの2人にとって、

生まれた時からの父との関係、
15歳で始まった母の世代の女性との関係、

は人格形成において大きなウェイトを持つことは想像に難くないから、
「ペストとコレラ」よりはうがった揶揄かもしれない。

そういえば、今はマクロンを応援している母親も、最初の頃は、マクロンの新党?『En Marche!』(歩き出せ!)を揶揄して、マクロンは満2歳になるまで歩き出さなかったので笑える、などと雑誌の中で語っていた。

でも『EM!』と略するとエマニュエル・マクロンのイニシャルになるようにできていて、理念や目的でなく「方向と進行、流れ」を強調するマクロンが若者にアピールする力を持ったネーミングだった。
まさか実の母にこんな突っ込みをされるなんて想定外だったろうな。

さあ、今日はルイ14世のおかげで生まれたバロック・オペラ『アルシーヌ』に出かける。音楽や演劇、舞踊の分野はもともと国際的だ。
このオペラはフランス・バロックだが、指揮のジョルディ・サバルはスペイン人、コンサート・マスターはドイツ=アルゼンチン人、チェンバロはフランス人、で、出演者全部の国籍は多様だ。ル・ペン女史の言うように「外国人を雇うと税金を課する」ような世界になるとアートや学術、イノベーションの世界はやっていけない。

ジョルディ・サバルのオーケストラの名は「コンセール・デ・ナシオン」。クープランの「les nations」に由来する。「国家」は複数だ。国教のない音楽(この世と異界との区別もない!)を意識していたバロック音楽にふさわしい。


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by mariastella | 2017-05-07 17:59 | フランス

エマニュエル・マクロンはフランスを救う?

これを書いているのはフランス時間の5/6の夜。
24時間後には新大統領が選出されている。

明日の午後はオペラ・コミックにマラン・マレのオペラ『アルシーヌ』を観に行くので、帰ってきたころには速報が出ているかもしれない。

このブログでは大統領選とカトリックの関係について少しずつ書いてきた。
まとめてみよう。

フランス司教評議会は、いくつかの重要点をに触れたが候補者の名を特定しなかった。
そのせいで、個々の司教たちがメディアから意見を聞かれることになった。

まあ、一般的なのは、「良心に従って選びなさい(トゥーロン司教)」というものだ。
ルーアンの大司教ルブランは「福音書を手にもって投票しなさい」と呼びかけたが、どのページを開けとは指示しない。

ただし、一次投票で三割以上の票がル・ペンに投じられたような司教区では、ポワティエ司教やサンブリィュー司教やポントワーズ、トロワなどの司教たちは、アンチ・ル・ペンを表明した。

マクロンに投票しろと言明した司教はいないようだ。

カトリック知識人たちにも、FNの外国人排斥が福音書に反していると明言する人がどんどん出てきた。ジャン・オルメッソンのような人気作家もそうだし、カトリック系の38団体、カリタスやマルト会や各種の人道支援のNPOもアンチFNを唱える。主要雑誌はマクロンへの投票を呼びかける。

一方で、同性婚法に反対したカトリックのグループはマクロンにも反対し、キリスト教政党の政治家クリスティーヌ・ブタンなどははっきりとル・ペンに投票すると言っている。政治人類学やキリスト教共同体主義の著書がある哲学者チボー・コランもル・ペンへの投票を呼びかけている。彼らの信念は「社会には守り続けるべきものがある」ということのようだ。

異種の排斥はキリスト教的ではない、というのとは別に、規制撤廃の自由化によって善き文化を破壊するのはよくないというキリスト教保守がいる。
フランスのカトリックは少なくとも「一枚岩」ではないのが分かる。

宗教や宗派以前のイエス・キリストのメッセージ(よそ者に宿を貸すというのも含む)に最も忠実な人たちには、「自分ちファースト」のナショナリズムは受け入れられない。
けれどもそれとは別に、文化的、階級的アイデンティティとしてのキリスト教徒がある。彼らは教義や典礼を共有することで連帯しているのだ。

今のフランスで、テクノクラートと化したEUや、経済成長などの数字のみによって存在が認められるグローバリゼーションのせいで、見捨てられ切り捨てられる人が増えているというのは誰も否定できない。

国が人々をその難儀から救おうという時に、

内向きになって国境閉鎖や外国人外国製品を排斥することで「フランス人を敵から守る」と言うのか、

外向きになってグローバルなレベルで戦う人の成功を助けて豊かさを生むことで「敵から守る」と言うのか、

その違いがル・ペンとマクロンの違いだ。

ル・ペンのやり方は実際問題として不可能である。

けれどもマクロンのように、

拝金主義が蔓延した結果拡大した経済格差の深刻さを解消するために、
貧しい人にもチャンスを与え、才能ややる気のある人に自由に能力を発揮させて稼がせる、

というのは、

何だか、軍拡競争、抑止力増大にも似ている。毒をもって毒を制す、というやつだ。

そんなことに「国家」が梃入れして煽るよりは、その競争に与しない人、はじかれた人を守って、犠牲となった人を手当てする方に回るべきではないか、ということを感じている人が少なくない。

けれども、そんな慈父型の「国家」はもう存続が難しい。

今回の大統領選でマクロン大統領が誕生するとしたら、それは、

ある目的やイデオロギーを持った党派

の時代から、

現状を見据えて進み方の「方法と方向」について合意を図るグループ

の時代に移るということなのだろう。

それはデジタル時代と、とても相性がよさそうだ。
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by mariastella | 2017-05-07 07:05 | フランス



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