L'art de croire             竹下節子ブログ

2017年 05月 08日 ( 2 )

大統領選から一夜明けての感想

決選投票から一夜明けて、ラジオと新聞でいろいろなコメントをチェックし、地方別、都市別、そして私や友人知人の住んでいる場所別にマクロンとル・ペンの支持率の割合を眺めて何か見えてくるものがないか考えた。

なかなか難しい。

移民やムスリムや外国人の多いところでル・ペンの支持が多いのかというとそうでもない。移民や移民の二世、三世、ムスリムなど二重国籍を持っている人も多いし、選挙権があるから、そういう人たちはみなル・ペンを嫌ってマクロンに投票する。
ル・ペンに投票する人は、イスラム過激派が怖いとかゲットーが怖い、不法滞在の外国人を追い出して過激なモスクも閉鎖して、という「分かりやすい」政策に期待するというセキュリティの動機よりもやはり経済的な動機だ。

貧困は金融経済と癒着したエリート政治家のせいで、ル・ペンならそれを一掃してくれると本気で信じているかどうかは分からないけれど、既成のシステムへの抗議の表れなのだろう。

同じようにマクロン支持も、マクロンを信じ期待しているというよりも、やはりル・ペンのやり方では実際問題として経済がもっと悲惨なことになる、という認識だろう。

総選挙の後でほんとうにル・ペンが最大野党になってしまうのか、二大政党が復活するのか、マクロン支持が絶対与党になれるのか、今回はまだまだ目が離せない。

右でも左でもない、フランスを統合するというマクロンのスローガンは、言うのはたやすいけれど、中身がない、あいまいだ、などと批判されているけれど、「統合」というものは本質的にそういうものだ。
「あいまいさ」や矛盾、葛藤のない「統合」は全体主義、ファシズム、独裁主義につながる。

イデオロギーや教義が個人の自由を奪うことに反対し続けた哲学者のジャンヌ・エルシユが
「あなたが人間の(存在)条件の問題に関わっていて、パラドクスに突き当たったなら、それはあなたが正しい道にいるということです」
というのは真実だと思う。

すごく個人的なレベルで考えてみよう。

マクロンの政策が施行されたら、可処分所得は減る。
80%の人の住居税を免除すると言うが、こういう時には絶対その恩恵にあずからないのに、株が上がっても富裕層が有利になっても、その恩恵にもあずからない、
いつも微妙に損をしている中途半端なレベルにいるからだ。
テロは怖いし嫌だけれど、分かりやすい対症療法をしても解決しないことは分かっている。根本的な、地政学的な判断と危機管理が必要で、国境を閉鎖などという無意味なことを、地続きで多数の国がひしめいてアフリカや中東とも接しているヨーロッパでやるのはなんの解決にもならない(その点は日本のような「島国」は多少の地の利があるけれど)。
グローバリゼーションの拝金主義や環境破壊や弱者の搾取は大問題だけれど、その問題を提起し、気づき、解決に努力し、行動を起こしているエリートたちも実際にいる。その声が聞こえ姿が見えるからこそ、私のような中途半端な者でも問題意識を持ち続けることができるのだ。

自分の所得や自分の安全のこまごました損得やリスクや恐れを考えるよりも、地球レベルでものを考える方が優先だと納得している。

「知性に訴える」というのを信じているといってもいい。
それがなければ人類はもう、とうに滅びていたかもしれない。

もう一つ個人的な確信は、アートには人を救う力があるということで、アートの成立には「自由」が必要だということだ。

私のすべきこととできることは、なんとなくわかっている。



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by mariastella | 2017-05-08 23:47 | フランス

マクロン勝利の夜

オペラから戻って、大統領選の結果を見て、ルーヴルのピラミッドの前のマクロンのスピーチをテレビで見た後でこれを書いている。

このブログでは大統領選とフランスのカトリックのことを書いていたので、マクロンの当選が決まった時のバイルーらのコメントを聞いて笑えた。

バイルーが「ルルドで大蝋燭を供えて」、という比喩を出したので、バロワンだったかがちょっとあせって「香を炊く、とか言うべきでしょう」と突っ込んでいたのが聞えたからだ。

久しぶりに見るドヴィルパンも、大統領になってからの孤独と責任の大きさに触れ、「これは本当のsacerdoce(聖職、僧職)だから」と形容した。

ギリシャのツィプラス首相(彼も40祭という若さで首相になった)がマクロン大統領の誕生は「フランスにとっても、ヨーロッパにとってもインスピレーションである」とコメントした。キリスト教文化圏でこういうと、「聖霊が降りた」という含意になるのでこれもおもしろい。

そういえば、先日は書くのを忘れたが、パリのカトリック教会は全体としては投票に関する意見表明は自分たちの役割ではないとしていたが、ポンピドーセンターに近いマレー地区のセント・メリー教会だけは、小教区として、司祭と信徒が協議してマクロン支持を表明した。ここは、性的マイノリティの信徒や司祭を支援する教区としても有名だ。間違ってもル・ペンを通してはいけないという使命感があるのだろう。

ル・ペンはFN(国民戦線)という名も改称して総選挙に臨む意図を表明していた。父親の時は20%を切ったのに、今回は35%程で大躍進だとも言う。このままいくと5年後は当確だ、と言いたいわけだ。
メランションは、ル・ペン女史は決選投票で二位ではなく三位だ、二位は「棄権、白票、無効票」の合計だと、コメントしていた。白票を勧めていたメランションらしい。

ルーブルでのマクロンのスピーチも、これまでのようにコンコルドやバスティーユという「フランス革命」の共和国っぽいところでなく元は王宮だから、マクロンは王党派に戻ったと揶揄する人もいた。これまでは当選者は政党の幹部に取り囲まれる姿を見せていたわけだが、マクロンは、「ひとり」(今回は第一回投票の後のように妻をいっしょに壇上に登場するというミスを避けてEUの歌である「喜びの歌」をバックに一人で進んだ)なので、「王」を演出したというのだ。でもバックには社会党のミッテランが建造したピラミッドが光っていて、ビジュアルにも、政治的にも効果的だった。

集まった人の雰囲気を「ビジネススクールの学生の祭り」と形容したジャーナリストもいた。

スピーチの中で、マクロンが何度か、「ヨーロッパが、世界がフランスを見ている」と強調していた。

それはここ数日、フランスのメディアが書き立てていたことでもある。
イギリスのEU 離脱やトランプ大統領就任の後で、欧米のナショナリズム増大が懸念されていたから注目されていたわけで、「棄権」や「白紙投票」を考えていた人々の一部が、「フランスの対面を守る、面子を保つ」のが大事だと思い始めたのだ。
フランス革命の国、ユニヴァーサリズムの国というプライドのためには、ル・ペン女史に大差で敗退してもらわなければならない、と考え直して白票でなくマクロンに投票した人々がいる。この辺のリアクションはとてもフランス的だ。自虐的なくせに実は誇り高い。

今日観たオペラのプロローグは、アポロンとディオニソスが「平和」と「戦争」のどちらが大切かを競うシーンからなる。もちろん平和や芸術の大切さを謳うアポロンが勝つ。アポロンとはもちろん太陽王ルイ14世のことを指し、このオペラの時代、ルイ14世は出征していた。戦争はしているけれど、自分の最も望んでいるのは平和なのだ、という主張が託されている。

その後のセリフにも、

「花なしには春が来ないように、愛なしには平和は来ない」

というのがあって、テロの脅威がおさまらないフランスにいて、なんだか身につまされた。(オペラについてはまたあらためて書きます。すばらしいものでした。)

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by mariastella | 2017-05-08 07:11 | フランス



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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