L'art de croire             竹下節子ブログ

2017年 07月 03日 ( 1 )

シモーヌ・ヴェイユの死

アウシュヴィッツの生き残りで、二週間後に90歳を迎えるはずだったシモーヌ・ヴェイユが亡くなった。(Veilで、哲学者のWeilとは違う)

シモーヌ・ヴェイユと言えばフランスでは1975年に妊娠中絶を合法化した保健相として有名だ。

当時の国民議会には女性議員が9人しかいなかった。(今回の総選挙では223人、38,7%が女性議員)
彼女が中絶の選択の自由を訴えると、「アウシュヴィッツでジェノサイド(民族抹殺)を生き延びたのに胎児のジェノサイドをやるつもりか」などと男たちから揶揄されたという。

イギリス軍から解放される数日前に母親がチフスで死に、助かった妹も数年後に交通事故で死に、2005年のアウシュヴィッツ解放60周年に出席した時にもまだ、自分は死の床でもアウシュヴィッツの光景を思い浮かべることだろう、と証言していた。癒えることのないホロコーストのトラウマを社会変革のエネルギーに変え続けてきた人だった。

戦争を生き延びたユダヤ人少年だった故パリ大司教リュスティジィエ枢機卿と、とても親しかったという。

リュスティジィエ師が、ユダヤ人の「改宗カトリック」で枢機卿に上り詰めた人であることや、カトリック的には「妊娠中絶」なんて「罪」であることなどを考えると、この2人の友情の深さや質のさまを想像できる気がする。

ヴェイユ女史は欧州議会の議長にも選ばれ、「多様性の中の統一」を掲げた。

アウシュヴィッツで一度死を経験したから、「不死」の中に生きていたという。
「難しい人」だったという。絶えず「悪」へと傾く人間の社会では、「たやすくて戦わない人」でいれば「未来」はない、絶えず困難な戦いを続けなければならないと。
亡くなった後たった一晩でもう25000人が彼女の遺体の「パンテオン入り」を大統領に訴える署名をしたそうだ。一日後には20万人にもなった。

ひとまずは、マクロンも出席するアンヴァリッドでの葬儀が決まっている。

ヴェイユ女史が、苦しい過去の上に平和を建設したようにやはり少し前に亡くなったドイツのヘルムート・コール元首相も、大戦の確執を乗り越えて平和を築いた人だった。

けれども彼は家庭的には最悪だった。政治の最悪な部分にも関わった。彼の遺品(各国元首との書簡を含む貴重な歴史資料)は、現政権を恨む二度目の妻が絶対に渡さないと言っている。

それに比べるとヴェイユ女史は3人の息子に11人の孫がいる家庭にめぐまれたが、政治的に「中道」であったけれど2007年にサルコジを支援したことが記憶に残る。サルコジは忠実な友だと言っていた。同性婚にも反対していた。今回の大統領選ではバイルーがマクロン支援に回ったことを裏切りのように評していた。
ナチスの全体主義への絶対拒否を持ち続けていたから、何度かもちかけられた首相の座も断ってきたし、ジュピターと称される今のマクロンの神格化の演出にも抵抗があっただろう。

まあ、コールと同じで、亡くなった今となっては称賛の声ばかりが聞こえてくる。
コールやヴェイユをしのぶことによって、政治家たちが自分たちの正統性の印象付けに利用するのではなくて、二度の大戦で殺し合った独仏の連帯と平和を目指すヨーロッパの理念に立ち戻ってくれることを願おう

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by mariastella | 2017-07-03 00:13 | フランス



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