L'art de croire             竹下節子ブログ

2017年 07月 18日 ( 1 )

スピノザ頌 3


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書斎机の上のスピノザ。死のひと月前くらいです。

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ベッドの上のスピノザ。

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デザートを待つスピノザ。


今回スピノザの死を見ていて、理想の死に方というのがどんなものかが実感を持って納得できた。
人間としてそれに付け加えるべきプラスアルファも。
少しずつ書く。

まず、ガイアのような軽い病気と医療事故、サリーのような悪性腫瘍、まやのような数年にわたる少しずつの衰弱と、死に至るときの数日間にわたるまた少しずつ増えていく苦しみ、などの経過は人間にもあり得るだろう。人の場合なら、緩和ケアというものがうまく機能することを願うケースだ。

スピノザはいつも少しやせ形で筋肉質で、ライオンのような子だった。
4年少し前、まやが死んだ後に全身を引っ掻き始めた。長年メンテナンスをしているので蚤などではない。獣医に見せたらストレスだろうと言われた。で、子猫イズーを迎え入れたらたちまち若返って、イズーと生き生きと遊び始めた。
イズーの教育係と言うか兄貴分の地位は最後まで変わらなかった。
年が離れているからもともと食の細いスピノザには特に気を使って老猫用の餌を与えていたし、特別扱いしていた。イズーもそれを受け入れていた。

でも、まやの死に近い16歳が近づいたころから、目を離すとプラスティックの袋をかじっては吐いたり、すぐテーブルにのって、クリームチーズを泡立てたデザートの容器の底にある残りをなめさせてもらうことを毎日要求するようになった。

味はついていないし微量だが、乳製品は基本的によくないのは分かっているのであまりやりたくなかったが、これを禁じたところで数年長生きするとも思えないし、今の幸せを優先した。

デザートまでじっと待って、後は冷蔵庫を開ける時からわくわくして、こちらが食べ終わるのを見守ってもう大きく喉を鳴らすのだった。

そのアディクションが増大してきたのは気づいていた。水も晩年のまやほどではないが昔より飲むようになり、腎臓が弱ってきていることは気づいていた。

インターネットで何度も調べた。
スピヌーとそっくりなケースの相談や体験談がたくさんあった。

つまり、

16歳を超えるような老猫
完全室内飼い
病的なほどに獣医息が嫌いで無理して連れて行くとストレスで死ぬのではないかと思うほど泣き叫ぶ

というケース。

8ヶ月くらいで去勢手術に連れていった時に、往きの車の中で恐ろしい声でなき続けた。

あらゆるトーンを駆使するし、フレーズが長い。

さて、インターネットにこの種の猫の健康相談がたくさんあるのはなるほどだと思う。
もともと猫医者の所に簡単に通っているような猫の場合なら、年を取って食が細くなったらすぐに医院に連れていくだろう。
点滴をしたり薬を与えたりして食欲や元気がその都度回復するようなケースもよく見かける。

でも、明らかに医者に行くことのストレスの方が年取ることの不具合のストレスよりも大きいと分かっている猫で、だからこそできるだけ医者を避けるという暮らしをして16歳で元気で幸せな猫と暮らしていて、それが急に食が細くなったり元気がなさそうになった時、果たして過剰なストレスをかけるのがいいのか、うちでそっと休ませるのがいいのかと自問することは、飼い主にとって大きな悩みとなる。だから、そういう人ばかりがネットに投稿するのだ。

で、答えは、まあこういうケースではとうぜん予測されることだけれど、

苦しんだり痛がっている様子がないならそっとしてずっとそばにいてあげましょう。
まず獣医に連れて行って診断を求めるべきです。血液検査が必須処置。
入院して点滴すれば回復するケースがあります。とにかく入院を。
猫によっては症状が現れる時にはすでに手遅れの場合もあります。

などなど・・・。

想定内である。

最後、スピノザがある日突然、ぱったり食べなくなり身を隠し始めた時の私の直感では、これはスピヌーに死期が訪れたんだろうと思った。それまでも、ある意味、いつ、どんな風にそれが来るのかを何度もシミュレーションしていた(私が日本に行っている間ならどうしよう、なじみの獣医がバカンス中の時だったらどうしようとかなど)ので、もし、このまま、こういう形で静かに逝くとしたら理想ではないかとも思った。

でも、獣医に診断させて、獣医の口から、

「ああ、これは老衰ですね、延命措置をしても長くはもちません。静かに看取ってあげてください」

という一言を「お墨付き」のようにほしかった。
それが欲しかったのは私だ。スピではない。

で、死の2日前にすでに泣き叫ぶ力もないスピヌーを獣医に連れて行っ点滴してもらったが反応はなく、「安楽死させますか」と聞かれたが、苦しんでいないので連れて帰った。もし苦しんでのたうち回るようなことがあればまた連れてきますと言った。

子猫のスピノザを16年前にうちに連れてきた当時の医学生は、今、大学の医学部で教え大学病院でも働いている。
その彼女にスピノザの状態や獣医の言葉を伝えると、

スピはなんといってももう十分高齢だ、
その様子ではこの週末が峠だから、無理な延命治療をしない方がいい、
私は病院で毎日人が死んでいくのを見ている。
スピのように幸せな生を送った猫ならそのまま早く逝った方がいいと思う、
何ヶ月もかかれば、もっと早く楽になれればいいのにと思うことで周りのみんなが罪の意識にかられることになる、
今回無理に持ちこたえさせてもすぐに次の危機が来るのは目に見えている、
スピのためにいいかどうかは分からない

という意味のメールが来た。

(続く)

[PR]
by mariastella | 2017-07-18 00:27 |



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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