L'art de croire             竹下節子ブログ

2017年 08月 19日 ( 1 )

ウィーンの話 その8   神の家のコンサート

ウィーンではほぼ毎晩、コンサートに行った。

パリでは、パリジャンたちがみなバカンスで留守の夏の間、地方のバカンス地でいろいろな音楽フェスティバルがあるのに、「観光客」を意識したコンサートなどが毎日教会であるというようなことはない。

教会のコンサートはやはり復活祭とかクリスマスとか教会の行事と結びついている。

考えてみたら、ある意味では「パリ観光」に売り物の音楽というのはパリにはない。
イメージとしてはムーラン・ルージュでフレンチカンカンというくらいだろう。

観光客が団体でドビュッシーとかラヴェルとかサティとかの音楽を聴きに来るというイメージはない。

フランス人作曲のフランス語オペラの『カルメン』だってスペインが舞台だし、逆にせっかくパリが舞台の『ラ・ボエーム』や『椿姫』はバリバリのイタリア・オペラだし。

ウィーンはベニスやプラハと同じで、もうとにかく毎日どこでも観光客ご用達のコンサートをやっている。
もちろん、モーツアルトにヨハン・シュトラウスという「目玉商品」がある。

でも、驚いたのは、そういう観光客ご用達のコンサート(私ももちろんそれに行ったわけだが)の観客の多くが中国人だということだ。

はじめ、アウグスティーナ教会のオルガンと管弦楽と歌のコンサート(ファティマの聖母に捧げる曲がメイン)に行った時に驚いた。

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こういう高みで演奏されるので、聴衆は演奏者に背を向けることになる。ちょっとフラストレーション。

午後に同じ教会に入った時、蝶ネクタイの男性が座って熱心に祈りを捧げていた。
それがその夜の指揮者で作曲家でピアニストのペーター・リッツェンだった。
夜の切符を買ったが、教会はがらがらだった。

その後、コンサートの30分ほど前に来ていると、中国人の団体らが押しかけていた。しかも、先ほど祈っていた指揮者が、すぐに入場させないように、と言っているので入り口で塊になっていたのだ。
教会なんだから、入るのを拒否するなんて変だ。しかもみなもうチケットを買っているのに。

で、その後ようやく入らせてもらえたが、確かに中国人が3割くらいいるような印象だ。
私の横の中国人のふたりの少年は熱いのに白シャツに揃いの紺の上着をきっちり身に着けていた。

全体にそこにいた中国人は身なりがいい感じだった。暑さもあって、ヨーロッパ人はTシャツにバミューダにサンダルいうのが多い。別にミサに出るわけでないから注意もされない。

その後、祭壇のマイクで、主催者らしい人が出てきてドイツ語であいさつし、その夜の管弦楽団と指揮者と曲目の紹介をした。ところが、その後だ。

蝶ネクタイの指揮者がそこに来て、今度はいきなり英語で話し始めた。

「中国人のみなさんのために英語で話します」というのだ。

その後、何を言ったかというと、

「ここは神の家 house of Godです」と何度も何度も繰り返し、

「だから大声を出さないように、拍手もしないように」

というのだ。厳しい顔をして。

驚いた。

その後に申し訳程度にドイツ語で一言、「ではお楽しみください」的なことを言ってから、後ろのオーケストラのいる場所に行った。

その時、これはあまり失礼ではないか、差別主義者ではないか、と気分が悪かった。
コンサート自体は悪くなかったけれど、ホテルに帰ってからリッツェンを検索したら、フランドルの人で61歳、中国で何度も公演していて、上海フィルと共演してチャイニーズレクイエムという録音もしている。

では、ただなんとなくアジア人に偏見、差別を持っている人ではなく、むしろ、中国人は「お得意様」ではないか。

それなのになぜあんな失礼なことを?

午後ずっと祈っていた姿からすると本人はすごく敬虔なカトリックで、彼にとって演奏も神の家で神に捧げるという宗教行為なのかもしれない。

それにしてもなあ、と思った。
この中国人たちの中にもカトリックの人がいるかもしれないし、宗教の場所を自然にリスペクトする人がほとんどではないだろうか。中国は、ローマとつながる隠れカトリック信徒の数だけでも日本よりはるかに多い(人口の絶対数が多いこともあるが)。

その謎はその後なんとなく解けてきた。(続く)



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by mariastella | 2017-08-19 03:12 | 雑感



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