L'art de croire             竹下節子ブログ

2017年 09月 11日 ( 1 )

ウィーンの話 その17  標本にされたソリマンの最期

ソリマンとモーツアルト(続き)

これも一次資料にあたっていないので確実には言えないのだが、ソリマンがフリーメイスンに入会して数年後に破産したとか大きな負債を抱えたという話もある。

彼の晩年がどのようなものであったかはよく分からないのだけれど、娘がしかるべき家庭の男と結婚して、前にも書いたように孫も歴史に名を残しているのだから、完全に無力な状態であったとは思えない。


ともかく、1796年、75歳になっていたソリマンはウィーンの街を歩いていた時に路上で動脈疾患(心臓か脳か不明)の発作で斃れて死んだ。


パリではフランス革命が勃発して恐怖政治を経た後、ナポレオンがイタリア遠征をした年だ。モーツアルトが死んで5年、ソリマンを愛したヨーゼフ二世が死んで6年経っていた。ヨーゼフ二世には後継ぎがなく、弟のレオポルドが即位2年後に死んだその息子フランツ二世が後を継いでいた。


ソリマンの遺体はフランツ二世に引き渡され、内臓だけが埋葬され、皮が剥がされて木型のマネキンに貼られる形で標本にされた。

珍しい「黒人」の剥製を作るために売られたのだ。

その「標本」は、半裸で羽根をまとい、貝殻の首飾りをつけるという「アフリカ原住民」の姿で自然史博物館のアフリカのコーナーに陳列された。

ウィーンの動物園の守衛だった黒人や六歳の黒人少女ら3人と共に、サバンナの動物の剥製を配したアフリカ展示の一部となったのだ。

ソリマンをキリスト教徒にふさわしく埋葬してくれるようにという子孫の申し立てもあったが聞き入られなかったようだ。オーストリアはすでにフランス革命戦争に突入していた。

生前あれほど尊敬され愛されていたソリマンが死後にこのような無残な形で扱われたということの根っこに、ウィーンの持つ独特の退廃や倒錯を感じてしまうのは考え過ぎだろうか。

フランスには、「黒いモーツアルト」と呼ばれた混血の作曲家に有名なシュヴァリエ・ド・サン=ジョルジュ(1745-1799)がいる。

彼も失意のうちに死にはしたがそれは王家に庇護されていたことがフランス革命で裏目に出たからだったので、ソリマンとは全く違う。

シュヴァリエ・ド・サン=ジョルジュはフランスで最初の黒人のフリーメイスンで、グラントリアンの「9人の姉妹」ロッジでイニシエーションを受けたとされるがその正確な年は分からない。


しかし1781年にフリーメイスンの音楽家たちと共に「パーフェクト・ユニオンのオランピック・ロッジ」の後援でオランピック・ロッジ・コンサートという管弦楽団をオーガナイズしている。

パリのシュヴァリエ・ド・サン=ジョルジュのような生き方は、ウィーンのソリマンには不可能だった。


それでも、この二人を結びつけるのはモーツアルトでありフリーメイスンだ。


ウィーンのフリーメイスンはソリマンの尊厳を守ることはできなかった。


1848年、ウィーン会議以来の体制に反旗を翻すウィーン三月革命がおこり、爆薬を投げ込まれた自然史博物館が全焼し、ソリマンの標本も灰燼と帰した。


フランス・バロック音楽とウィンナ・ワルツの差には、実は、いわくいいがたい毒がひそんでいる。

いつか言語化できる日が来るかもしれない。


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by mariastella | 2017-09-11 02:51 | フリーメイスン



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