L'art de croire             竹下節子ブログ

カテゴリ:猫( 45 )

リシュリューの猫 その5

さあ、後6匹。

Rubis sur l'OngleとSerpolet

リュビー・シュル・オングルくん、つまり「爪の上のルビー」くんは大のミルク好きだったそうだ。

フランスは酪農国だから牛乳はふんだんにある。そして「猫はミルク好き」と決まっている。

昔の日本人が残り飯に味噌汁をぶっかけたものを猫飯としたように、フランス人は硬くなったフランスパンの残りをミルクに浸して猫パンにしていた。

これを猫と犬の両方に与えていたフランスの農家の人を見たことがあるが、猫は喜んでパクパク食べ、犬は悲しそうな顔をして飼い主を見上げたのを覚えている。

今は人間と同じで成猫にはミルクは消化できないのでやってはいけないなどと言われているが。

「爪の上のルビー」というのは別に爪が紅いわけではない。

Rubis sur l'Ongleとは口語の慣用句で「すっかり、きっちり」と言った意味だ。

リシュリューと同時代の17世紀が起源の言い回しで、ルビーというのは、あの紅い宝石ではなくて、赤ワインの最後の一滴のことだ。

最後の一滴は、爪の上にたらされて、舐められたと言う。

金をすぐにきっちり払うという意味でも使われるようになった。

この表現は今でも通用しているのだがその由来を知らずに、ルビーの指輪をはめているような人は金持ちで金払いがいいという意味じゃないのか、と思っている人もいる。

「爪のルビー」くんはミルクの入った皿をいつもさぞぴかぴかに舐め上げていたのだろう。

少なくなってきたらほんとうに前足ですくうようにして最後の一滴を爪にひっかけようとしていたかもしれない。

なかなかフランス的でかわいい響きの名だ。

セルポレくんの「Serpolet」は香草タイムの一種で日光を好む性質がある。

セルポレくんは猛烈に日向が好きだったそうだ。

時に連れて陽だまりが移動していくと、そこから離れないようにこまめに移動していく猫の姿はほほえましい。

たまに黒猫で強い日の光を浴びて寝てしまって温度が上がり過ぎ、自分でもあわてて熱くなった側を影の床にすりつけて冷ましている猫がいるが、それも愉快だ。

パリの緯度は高いので冬は部屋の奥まで陽がさす。

でも17世紀は寒冷期に向かった時代だから陽の差す日は少なかったかもしれない。

こたつのない国の猫たちは暖炉の前に集まって丸くなっていたのだろうか。
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by mariastella | 2013-08-19 01:47 |

リシュリューの猫 その4

猫マニアのことはfélinomaneとよぶ。

一代で王家をしのぐ資産を築いたリシュリューもフェリノマーヌだった。

リシュリューは私財を投じてソルボンヌの立派な聖堂を造らせたし、アカデミー・フランセーズの基礎も築いた。

アカデミー・フランセーズは今でもフランスで一番権威のある学者組織であり、フランス語学士院でもある。

空席ができた時にだけ新入会員が選ばれる。その挨拶は時代がかっていて厳粛なものだ。

でもその厳粛な席に猫が迷い込んだら…

リシュリューの猫の名にPerruque とRacan がある。

ペリュック(鬘という意味)ちゃんは、アカデミー・フランセーズの名士の鬘から落ちた雌猫だそうだ。

当時の王侯貴族や公人がくるくる巻き毛の長い鬘をつけていたのはよく知られている。
けれどもリシュリューはカトリックの枢機卿の称号を持っていたので赤い枢機卿の帽子をかぶっているから、大仰な鬘などつける必要はなかった。

この猫のエピソードを読んだ時、厳粛なアカデミーの席で、リシュリューの愛猫がアカデミー会員の頭に上ってその鬘を落としてしまったのかと思った。

でも、落ちたのは猫らしい。

周りにいたみなが一瞬鬘が落ちたと思ってあせったのだろうか。
その猫はどこから来たのだろう。

ともかくその猫はペリュック(カツラ)ちゃんと名付けられた。

で、雄猫のラカンくんとは、件のアカデミー会員のラカン侯爵の名をいただいたのである。

詩人のラカンさんはリシュリューより4歳年下で、リシュリューの指揮のもとにプロテスタントのラ・ロッシェルを攻めた戦争にも参加している。
成立したばかりのアカデミー・フランセーズの30番目の席(今でも定員は40名)を与えられたのは36歳の時だ。肖像画を見ると鬘も頭頂部が薄い感じで、ユーモアのセンスにあふれた顔には見えない。

でも夢見がちの人だったというエピソードも伝えられている。

鬘に猫が乗っているのに気がつかなかったのか、巻き毛の鬘になら猫は絡まってぶら下がるのではないか、そもそも猫は「落ちる」のか、飛び降りるのではないか、などという疑問が渦巻く。
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by mariastella | 2013-08-17 06:51 |

リシュリューの猫 その3

リシュリューは軍人になる教育を受けていた。海軍士官学校で、馬術、剣術、ダンスのレッスンも受けていた。バロック・バレーを踊っていたわけだ。

ところが司教になるはずだった兄が急に修道僧になると言いだしたので、家族の領地であるリュソンの司教になるべく進路を変更、ローマで4年間神学を学び、21歳で司教に任命された。

26歳が司教になれる最低年齢だったので洗礼証明書をごまかして26歳としたらしい。

さて、今回は

Mimi-Paillon とMounard le Fougueux

ミミ・パイヨンはアンゴラの雌猫

ミミは日本の「タマ」のように今でもフランスの猫のスタンダードな名前だ。フランスの猫は「ミィアウ」となくことになっているから鳴き声に由来する名前だろう。
ミミはミニヨン(mignon=かわいい)にも通じる。
今のフランス語で「mimi」と言えば「カワイー」ということ。猫一般の愛称、何でもかわいいものの愛称にもなっている。

パイヨンは鳥がピヨピヨと囀る感じだ。小柄でかわいい声でよく鳴く甘えん坊な猫を想像する。

ムナール・ル・フグー(勇みのムナール)くんはいたずら好きで喧嘩好きでおしゃべりな雄猫だったそうだ。

ムナールとは鋭い声を発する空想上の動物で、mouton(ムトン、羊)とrenard (ルナール、キツネ)または canard (アヒル)の合いの子だという説もある。
羊の鳴き声とアヒルの鳴き声を混ぜたようになく猫を見て「こりゃ、ムナールだ」と名付けたというエピソードが今のウェブにも載っているくらいだから、勇みのムナールくんも、「ギャアアー」と独特の鳴き声を発しては喧嘩に出かけていたのかもしれない。
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by mariastella | 2013-08-16 07:03 |

リシュリューの猫 その2

リシュリュー(1585-1642)は猫たちといっしょに寝ていた。
宮廷に猫部屋を用意して執務の時も必ず一匹はそばにおくようにした。
鶏のささみのパテを日に2回食べさせていた。
世話係が2人専任で、具合が悪い時は枢機卿の専属医が診た。

-Ludovic le Cruel とLudoviska

リュドヴィク・ル・クリュエル(残酷リュドヴィク)くん  

優秀なネズミ捕り猫だったらしい。
「残酷」というのは捕ったネズミを弄んだからだろう。
リュドヴィクという名はゲルマン起源でhlod (栄光)と wig(戦い)の組み合わせらしく、ここからフランク王クローヴィスの名やフランスのルイの名も派生した。
聖人の祝日にも聖ルイ王の日が適用される。

ルイ13世に仕えたリシュリューが自分の猫に「残酷リュドヴィク」などと名付けたのはそれなりの何かがあったのかと勘繰りたくなる。

リュドヴィスカちゃん 

ポーランドから来た雌猫。だからポーランド風の語尾をつけ加えたのだろう。
けれど、リュドヴィクと名が対になっているところを見ると、同時に献上されたきょうだい猫だったのだろうか。
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by mariastella | 2013-08-15 17:14 |

リシュリューの猫 その1

「差別されているマイノリティまたは社会的弱者が個別にロビー活動したり個別に支援されたりするとかえって全体の状況を悪くするんじゃないか」という日頃考えているテーマをめぐって黒人奴隷制についてまた書こうと思っている。でもまとまった時間がとれないので、その前に、「リシュリューの猫」シリーズを少し。

ルイ13世の宰相だったリシュリューの猫好きは有名で絵もたくさん残っている。(うまくリンクできない時は出てきたページの右上の検索アイコンをクリックしてください)。

女好きでもあったらしくて、連れ添った姪との間に数人の子供がいたとも言われているが、表向きはカトリック教会の司教で枢機卿(ちゃんと神学部で勉強もした)だから後継ぎはいないので猫たちに財産を残したという話もある。

ルーブルの前に構えた住居だったパレ・カルディナル(枢機卿宮)は王室に寄付されて今のパレ・ロワイヤルになったし。

で、猫。

王立図書館の本をネズミから守るために導入したとも言われる。

14匹の愛猫の記録が残る。

まずFélimareくんとLuciferくん。

フェリマールくんは雄のトラ猫。

FéliはFélin(猫科の動物)から来ているのだろうし、Mareはmarreと通じ、今でもmarrant(おもしろい、あるいは反語的につまらない)などと言えるのだが、それよりも、tintamarre(大騒ぎ、騒音。シャリヴァリなどと同義。オノマトペ。鐘や太鼓をみだりに叩くイメージ)を連想する。
そういえば、リシュリューがアカディーと名付けたカナダのフランス人植民者の子孫の間には今もタンタマールというお祭りがあるそうだ。そこから連想すると、いつもギャーギャーとやかましい猫が想像できる。

ルシフェールくんは黒猫。

これはそのまんま悪魔のイメージか。リシュリューは魔女とか魔女の化身の黒猫を粛清している。
でも自分ちの黒猫の、輝くビロードのような毛並みを愛撫してはその妖しい美しさに感嘆していたのだろう。リュシフェールの語源は「光を運ぶ者」で、キリスト教文化では神に反抗した堕天使からついにはサタンと同義にまでなってしまった。
黒猫の毛の艶にしかキャッチできない光沢は特別だし、黒い頭の中で光るグリーンや金色の目の美しさも特別なので、枢機卿さまも悪魔に魂を奪われそうになったかもしれない。
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by mariastella | 2013-08-14 23:20 |

カール・ラガーフェルドと猫

デザイナーのカール・ラガーフェルドが、「まだ人間と動物の結婚はない。でも自分が猫に恋するなんて思いもしなかった」、と語ったことがあちこちで記事になっている

フランスの「同性婚」成立にまつわる騒ぎにかけたユーモラスなエピソードとして受け入れられているのだが…

「カイザー(帝王)」とも呼ばれるファッション界の重鎮のラガーフェルドは友人からあずかった白毛長毛碧眼のバーマンの雌に恋して、返さずにそのまま飼うことにした。

そのシューペットちゃんには今や2人の専属のアシスタントがついていて、ラガーフェルドが旅行で留守にする時は一時間に一枚の現状報告写真を送ってもらっているそうだ。

シューペットTwitterちゃんの名でfacebookやtwitter (27200人がフォロー) もある。まだ2歳くらいだ。

写真を見ると確かにすごくかわいいし、猫好きとして自分の猫に耽溺する気持ちもある程度分かるのだけれど、この人の場合はなんとなく、自分のエゴやナルシシズムの中にシューペットちゃんも「モノ」化して「所有」している気がする。

ピカソの孫娘Marina Picassoが「ピカソは女たちや子供たちを自分の天才で押しつぶした、彼の周りではすべてがモノ化するのだ」と言っていたのを思い出した。それはピカソ症候群というのだそうだ。

猫と「結婚したい」とか「恋している」とかいうと人間同士のように対等に見ているかの印象を受けるかもしれないが、本物の人間に恋してもモノとして所有して道具にしたり放置したり捨てたりするエゴの怪物も存在するのだから、ラガフェルドの「愛情告白」にもなんとなく違和感を感じる。

「猫好き」って、どんなにボロボロの猫にでも情緒をかきたてられるものだ。

そして、猫という動物の、人間に「モノ化」されることを拒否するというその特性そのものを、称賛せざるをえないものである。
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by mariastella | 2013-06-09 19:51 |

ノイズ・キャンセリング・ヘッドフォン

飛行機の中では音楽を聴いたりビデオを観たりしようとしても、かなりの音量でエンジン音がずっと響いている。そのうち慣れるものではあるが、それをカットする高性能のヘッドフォンがある。

これをつけると、他の音源とつながなくとも、人の声ははっきり聞こえるがモーター音などのノイズがぴたりと消えるのだ。

それをうちの中でつけてみると、急に真空の中で話しているような気がした。

もちろん、真空だと声は全く聞こえないのだが、まるで、真空の中で人の声だけがマンガの中の吹き出しに囲まれて運ばれてくるような感じだ。

なぜかと思うと、冷蔵庫のモーター音が消えていたからだった。その冷蔵庫の音はもともと小さくて、距離もあるし、普段は全く気にならないのだが、一度消えてみると、それがずっとなっていのだと分かる。

時計のチクタク音は消えない。

そこにネコが来たので、あることを試してみた。

まず撫でてやり、ゴロゴロとのどを鳴らし始めたのを確かめてから、ヘッドフォンをつけた。

ゴロゴロの音がピタッと、虚空に消えた。

ネコの喉を鳴らす音は、食べたり飲んだり舐めたりしながらでも続くもので、呼吸とも関係がない。一体どこでどのように鳴らしているのか分からない連続振動だ。

私は大人になってからはじめてネコを飼ったので、ゴロゴロとはどのようなものか知らなかった。最初のネコが最初に膝の上に乗ってかすかにゴロゴロ(フランス語ではronron)し始めた時にああ、これがネコが喉を鳴らすということなのかと感激した。

しかし、ヘッドフォンをしていても猫が「ニャー」と鳴けばちゃんと聞こえるのに、ゴロゴロだけがノイズ・キャンセリングにキャッチされて消えてしまうなんて、なんとなく意外だった。

キャンセルの対象となるノイズとはもっと機械的な音で、有機的なものはスルーされるのかと思っていたからだ。

確かに連続の振動音には違いないけれど、ロンロンテラピー(ゴロゴロ療法?)という名で録音したCD まで発売されるほど「癒し効果」のあるネコのゴロゴロを切って捨てるなんて、この手のデジタル機器はひょっとしてハイテクな「野暮」かもしれない。
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by mariastella | 2013-03-27 00:14 |

ネコはオオカミが嫌い またはセザール賞授賞式の話

うちのネコ(今年12歳の年男のスピノザ君)は私の書斎にあるソファの上の羊の毛皮の上に座ってそれをざりざりなめていることが多い。

昨日、風呂に入ってからテレビでセザール賞授賞式の続きを見ようと思って、湯冷めすると困るからパジャマの上から毛皮のコートをはおった。

先日えらく寒かったので久しぶりに出して着ていたもので、もう30年以上前に買ったものだ。

お出かけ用のキツネと違って、ジーンズの上からはおるためのざっくりシンプルなオオカミの毛皮だ。

今はパッチワーク風の繊細なものが多いが昔のものだからある意味ワイルドである。

最近これを着て出かけたら、メトロの中でエコロジー原理主義者に襲われるんじゃないか、と若い連れに心配された。

でも、ちょっと見にはフェイクファーと区別がつかないじゃないかとも思ったので、あまり気にしなかった。。

で、毛皮にくるまって長椅子に座ってテレビを見ていたら、ネコがやってきた。

この態勢だといつもすぐに腹の上に乗ってくる。

ネコがオオカミを舐めたらおもしろいかもしれないと思って呼んでみたのだが、長椅子には上がってきたが、絶対に毛皮の上に乗ろうとはしない。

いつもは私の頭を差し出しても舌でせっせと「毛づくろい」してくれるネコなのに、触れようとはしない。

無理矢理に口のあたりに毛皮の袖を持っていくと、逃げられた。

その様子を見て、おお、これは本当にオオカミの毛皮なんだなあ、と思った。

ネコってオオカミが嫌いなんだなあ、ふわふわであたたかければなんでもいいわけじゃないんだ。

キツネとかミンクとかウサギならどうなるのだろう。

オポッサムの毛皮ならフクロネズミだから大喜びかな、いやあれはネズミじゃなくて有袋類で別物かもしれない。

そう思いながら見ていたセザール賞のセレモニーは、いつもながら政治的公正とは無縁のいかにもフランス的なエスプリに満ちていて、フランスじゃアーティストはみな自由人の位置づけなので、とんでもないフレーズが飛び出してくる。

放送禁止用語のリストを読み上げる者とか、ロシア風のラ・マルセイエーズのコーラス(税金逃れでフランスを離れようとしてプーチンからパスポートをもらったドゥパルデューを揶揄したもの)、名指しで業界人のモラルハラスメントを告発する者とか、司会者までが「僕のおじさんはいつも、俳優は皆ユダヤ人かフリーメイスンだと言っていたものだ」などというきわどいことを言っている。

カウボーイがcowなのに馬に乗っていると言ったら本物の馬が舞台に出てきて、ルーマニアから来たcowです、とかジョークをとばした。そういえば牛飼いのカウボーイだが、そのイメージには牛など出てこないで馬だよなあ。

一時はアカデミー賞を意識してショー的要素を増やした時期もあったセザール賞セレモニーだが今やすっかり開き直って、昔のように、エリート学生たちの内輪のお祭りみたいになっている。

でも、主演男優賞と女優賞が79歳と86歳の男女というのは、ある意味すごくフランス的だ。

アメリカとフランスのメンタリティの違いはショービジネスの世界で一番はっきりすると、あらためて思った。
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by mariastella | 2013-02-24 06:27 |

イ長調で文句を垂れる猫

トリオの仲間とうちの練習室で練習していると、隣りの廊下から猫のスピノザ(通称スピ、またはスピヌー)が、入れてくれといってしつこく鳴く。

ドアをがりがりしたりノブに飛び上がったりもするが、だめだと分かると、哀切と不満が絶妙にからんだ「入れてよー」コールをかけてくる。

その訴求力はすごい。

他の音なら無視して演奏できる私たちもつい動かされてしまう。
私たちトリオがいつの間にかスピを交えたカルテットになっているような具合に声が侵入してくるからだ。

それは、Buryのシャコンヌを演奏している時だった。

この曲を私たちはラ長調(日本風に言うとイ長調)で弾いている。
スピは、それをキャッチして、必ず、自分の嘆き節を「ラ」の音で始めるのである。

それだけだと、「あれ、スピって、ラの音でなくんだなあ」 で終わるだろう。

けれども、私たちは、楽器のピッチを「ラ=440ヘルツ」で弾く時と、418ヘルツで弾く場合と二通りあって、半音近いずれが出るのだが、スピヌーは、どちらの場合でも、正確にその二つのピッチを使い分けるのだ。

つまり、私たちの演奏の基音を正確にキャッチしてアジャストすることで、「曲のドア」を楽々と開けて、何食わぬ顔で四番目の演者におさまってくるわけなのだ。

440と418(こっちがバロック・ピッチだが、歌などが入らない場合は、弦の張り具合や音の届き具合を考慮して私たちは440でも弾く)を聞き分ける猫、というより、多分、鳴き始める時に自然に共振するのだろう。

それにしても単にギャーギャーなくと雑音として無視されることを学習して、同じ調性で演歌風にビブラートをきかせた恨み節を挿入するわけだから、そうされると、こちらも思わずスピとの「仲間感」が生まれてくるのがシュールである。
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by mariastella | 2012-06-02 00:34 |

ニーチェと猫

ニーチェって猫嫌いだったんだろうか。

『ツァラツストラはかく語りき』の中でも、月を、屋根の上をしのび歩くオス猫にたとえて「いとわしい」といっている。

極め付きは、猫を「愛する能力のないもの」としてそんなものに喉を鳴らしてもらうことはくだらないと戒めていることだ。

これについて、こんな解説がなされることがある。

人からの評価を気にするな、あなた以外の他人のほとんどすべては自分のことしか考えていない。ほんの一部があなたのことを好きか嫌いかであるが、あなたを嫌う人のうちの半分は、理由があってあなたを嫌っているのではなく、すべての人を嫌っているのだ。だから、みんなから好かれようとするのは不可能でばかげたことだ。

それは本当だと思うのだけれど、そして、猫が喉を鳴らすのは確かに猫自身の自己満足の表現かもしれないけれども、そうやって満足を音にしてくれる信頼ぶりに、私たちは愛を感じるのであって、猫によって人間同士とは違うまた別の愛し方や愛され方を学ぶのだ。

ニーチェが猫をひざに乗せてめでていたら別の人生を送っていたかもしれないなあ、と、ふと思う。

それとも、私が知らないだけでニーチェには愛猫がいたのだとしたら・・・

ますます不可解でかわいそうになってくる。
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by mariastella | 2012-03-10 07:28 |



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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